下肢静脈瘤の治療における新しい選択肢:シアノアクリレート系接着材治療
下肢静脈瘤は、多くの方にとって見た目の問題や脚の不快感を引き起こす症状です。これまでの治療は血管内焼灼術(レーザーや高周波)によるものが主流でしたが、2020年からシアノアクリレート系接着材を使用した治療法が新たに健康保険で受けられるようになりました。このブログでは、シアノアクリレート系接着材治療(以下、CAC)の特徴、適応、メリットやデメリットについてわかりやすく解説します。参考文献:下肢静脈瘤に対するシアノアクリレート系接着材による血管内治療のガイドライン(広川ら 静脈学2020; 31(3): 141–152)
シアノアクリレート系接着材治療(CAC)とは?
CACは、接着剤を用いて静脈を閉鎖する治療法です。これにより血液が健康な静脈を通るようになり、下肢静脈瘤を改善します。CACの大きな特徴は、従来のレーザーや高周波治療に必要な局所麻酔や焼灼のプロセスが不要である点です。この治療法は「非熱非膨潤型治療(non-thermal non-tumescent, NTNT)」とも呼ばれ、より低侵襲な方法として評価されています。CACの適応と禁忌
適応 – 対象となる静脈: 大伏在静脈や小伏在静脈といった主要な表在静脈。– 対象患者さん: 症状がある下肢静脈瘤の患者さん。
– 静脈の太さ: 12mm以下が望ましいとされていますが、一部のケースではそれ以上の太さでも対応可能と報告されています。
禁忌 – 接着材アレルギー: シアノアクリレートに対する過敏症がある場合は治療できません。
– 感染や皮膚疾患: 感染性潰瘍や蜂窩織炎がある場合は避けるべきです。
– その他の慎重適応: 自己免疫疾患やアレルギー体質を持つ方には注意が必要です。
CACのメリット
1. 麻酔が不要 従来の治療法で必要だった局所麻酔を使わずに済むため、痛みが少なくなります。2. 短時間で治療可能 手術時間は短く、日帰りで完了することがほとんどです。
3. ダウンタイムが短い 治療後すぐに歩行が可能で、日常生活に早く復帰できます。
4. 低侵襲 熱や大規模な処置が不要なため、術後の出血や炎症が少ないとされています。
5. 弾性ストッキングが必須ではない 術後の弾性ストッキングの着用が必須ではないとされています。これは、従来のレーザーや高周波治療と比較して、治療方法が熱を伴わず、血管の損傷や炎症が少ないためです。
CACのデメリット
1. 特有の合併症 – Phlebitis(静脈炎様反応): 治療後、静脈に沿って赤みや腫れ、かゆみが現れることがあり、6.3%の頻度で報告されています。– 過敏症: 一部の患者でアレルギー反応やかゆみが生じる可能性があります。
2. 治療の長期成績が不明 CACは比較的新しい治療法であるため、長期的な安全性や有効性に関するデータは十分ではありません。
3. 治療費が高い 治療費は3割負担の方で43080円です(その他に短期滞在手術等基本料4080円や薬剤費用などが別途かかります)。従来の治療法であるレーザーや高周波治療の30600円と比べて費用が高くなります。
4. 側枝静脈瘤には対応できない CACは大伏在静脈や小伏在静脈が治療対象なので、伏在静脈から枝分かれした側枝静脈瘤のある患者さんの場合、静脈瘤切除術を併せて行うか、硬化療法を追加する必要があります。
CACと従来治療法の比較
特徴 | CAC | レーザー/高周波治療 |
麻酔の必要性 | 不要 | 局所麻酔が必要 |
ダウンタイム | 短い | やや長い |
主な副作用 | 静脈炎様反応 | 皮下出血、色素沈着など |
適応範囲 | 一次性下肢静脈瘤のみ | 幅広い |
CACを受ける際のポイント
1. 専門医に相談する CACを安全に受けるには、技術と経験を持つ血管外科医の診察を受けましょう。2. 事前に検査を受ける 超音波検査などで静脈の状態を詳細に確認し、適切な治療法を選ぶことが重要です。
3. 慎重なアフターケア 治療後の経過観察や適切なケア(場合によっては弾性ストッキングの使用)が必要です。
まとめ
シアノアクリレート系接着材治療は、下肢静脈瘤の治療において低侵襲で短期間の回復を可能にする新しい選択肢です。特有のメリットがある一方で、長期的なデータ不足や特定の合併症への対応が課題です。治療法を選ぶ際には、医師と十分に相談し、自身に最適な方法を見つけてください。下肢静脈瘤に悩む方が安心して治療を受けられるよう、最新情報をもとに適切なケアを提供することが重要です。