どの治療がベスト?下肢静脈瘤の治療法を徹底比較!レーザー vs 高周波 vs グルー vs ストリッピング

下肢静脈瘤の治療法別比較:レーザー治療 vs 高周波治療 vs グルー治療 vs ストリッピング

下肢静脈瘤は、多くの人々に影響を及ぼす血管疾患です。足の静脈が拡張し、血液の逆流が起こることで、足が痛くなったり、重く感じたりすることがあります。進行すると、皮膚の変色や潰瘍の原因となることもあり、治療が必要です。

現在、下肢静脈瘤の治療には主に「血管内焼灼術(レーザーカテーテルまたは高周波カテーテル)」、「血管内塞栓術(グルー治療)」、「ストリッピング」の3つの方法があります。それぞれの治療法には特徴があり、どの治療法を選ぶべきかは患者さんの状態やライフスタイルに応じて決定されます。このブログでは、それぞれの治療法の特徴を比較し、利点や欠点について詳しく説明します。

1. 血管内焼灼術(レーザーカテーテルまたは高周波カテーテル)

概要: 血管内焼灼術は、カテーテルを治療対象の静脈内に挿入し、熱によって静脈を閉塞させる治療法です。カテーテルにはレーザーカテーテル高周波カテーテルの2種類があります。どちらも局所麻酔を使用しての手術となり、日帰り手術が可能です。

レーザーカテーテル(写真提供:インテグラル株式会社)

高周波カテーテル(写真提供:コヴィディエンジャパン)

レーザーカテーテルのメリット:
  • 下肢静脈瘤手術の主流:現在の下肢静脈瘤手術は世界的にもレーザーカテーテルで行われることが多くなっています。それは下記にお示しする様々なメリットがあるためです。
  • 切らない・縫わない: 皮膚に大きな切開を加えることなく、カテーテルの先端からの熱により静脈を閉塞します。皮膚を切開しないため、糸で縫うことも、抜糸も必要ありません。具体的には、血液検査や点滴を受けた後のような針を刺した痕と同じ程度です。そのため、傷跡が残る心配がありません。
  • 複雑な形状の静脈瘤も治療が可能:レーザーカテーテルは径が1.27mmと非常に細いうえ、柔軟性があります。そのためクネクネ曲がりくねった静脈瘤もレーザー焼灼することができます。静脈瘤は木の幹に相当する伏在静脈と、枝葉に相当する側枝静脈瘤から成り立ちますが、レーザーカテーテルは伏在静脈も側枝静脈瘤も同時に治療が可能です。
  • 痛みが少ない: 皮膚を切らないため、術後の痛みに関しては、痛み止めを数錠服用するか、あるいは全く服用しないで済む、という程度です。
  • 回復が早い: 手術後すぐに歩行可能で、翌日にはお仕事・入浴・運動など、通常の活動に戻ることができます。これは皮膚を切らず、痛みも少ないためです。休職の必要がないため、忙しい方にも適しています。
レーザーカテーテルのデメリット:
  • 再発のリスク: レーザーカテーテルは今回取り上げる4つの治療方法の中で最も治療能力が高く、万能と言っても過言ではない治療方法ですが、完璧ではなく、再発する可能性はゼロではありません。目黒外科のレーザーカテーテル手術後の再発率は約1%です。
  • 内出血・しこり・つっぱり感: 血管の治療であるため、術後のアザはやむを得ません。1~2週間で消えます。静脈瘤をレーザー焼灼した場合、皮膚の下でしこりとなります。3~6か月程度で吸収されて消えますが、時間がかかります。太ももの静脈をレーザー焼灼した場合、立ち上がる瞬間に皮膚のつっぱり感を感じることがあります。これは約1~2か月で治ります。
高周波カテーテルのメリット:
  • 切らない・縫わない: レーザーカテーテルと同様に皮膚に大きな切開を加えることなく、カテーテルの先端からの熱により静脈を閉塞します。皮膚を切開しないため、糸で縫うことも、抜糸も必要ありませんが、レーザーカテーテルと比較すると太さが約2倍ありますので、カテーテルを挿入した部位の傷跡は多少目立ちます。
  • 痛みが少ない: 術後の痛みはレーザーカテーテルと同程度です。
  • 回復が早い: 手術後すぐに歩行可能で、翌日にはおおむね通常の活動に戻ることができますが、静脈瘤切除術など皮膚切開を伴う追加処置が行われた場合は運動や入浴の許可は遅れるかもしれません。
高周波カテーテルのデメリット:
  • 再発のリスク: レーザーカテーテルと同様に再発のリスクはあります。
  • 静脈瘤は焼灼することができない:高周波カテーテルはレーザーカテーテルと比較するとカテーテルが太くて柔軟性が劣る事、カテーテルに巻かれたコイルが3㎝と7㎝の2種類あるのですが、これよりも短い長さの静脈瘤は焼灼することができません。静脈瘤は木の幹に相当する伏在静脈と、枝葉に相当する側枝静脈瘤から成り立ちますが、高周波カテーテルが焼灼できるのは伏在静脈だけです。側枝静脈瘤の処置は皮膚切開を伴う静脈瘤切除術を追加するか、硬化剤を注射する硬化療法を追加することになります。
  • 内出血・しこり・つっぱり感: レーザーカテーテルと同様、血管の治療であるため、術後のアザはやむを得ません。1~2週間で消えます。焼灼した伏在静脈は皮膚の下で硬いスジとして触れますが、6か月~1年程度で吸収されて消えます。太もものつっぱり感もレーザーカテーテルと同様です。

2. 血管内塞栓術(グルー治療)

概要: グルー治療は、シアノアクリレートという医療用接着剤を用いて、治療対象の静脈を物理的に閉塞する方法です。これにより、静脈内で血液が流れなくなり、下肢静脈瘤の症状が改善します。局所麻酔で行われます。

写真提供:コヴィディエンジャパン

グルー治療のメリット:
  • 麻酔の負担が軽い: 全身麻酔や静脈麻酔を必要としないため、患者さんの体への負担が最小限です。
  • 迅速な回復: グルー治療後もすぐに歩行可能で、ほとんどの患者さんが翌日には通常の生活に戻れます。
  • 術後の弾性ストッキング着用が必須ではない: カテーテル治療やストリッピングは術後の静脈血栓予防のため弾性ストッキング(着圧ソックス)を数週間~1か月着用する必要がありますが、グルー治療後は必ずしも弾性ストッキングは必須ではありません。そのため、高齢で弾性ストッキングの着用が困難な方などはグルー治療によって静脈瘤の治療が可能です。
デメリット:
  • 長期的データ不足: 比較的新しい治療法であり、長期的な効果や合併症についてのデータがまだ十分に蓄積されていません。
  • 曲がりくねった静脈瘤には対応することができない:静脈瘤は木の幹に相当する伏在静脈と、枝葉に相当する側枝静脈瘤から成り立ちますが、グルー治療の場合細長いチューブを挿入できるが伏在静脈だけですので、側枝静脈瘤の処置は皮膚切開を伴う静脈瘤切除術を追加するか、硬化剤を注射する硬化療法を追加することになります。
  • 遅発性過敏反応:グルー治療を行った患者さんのおよそ5%の方に遅発性過敏反応という、静脈に沿った熱感・痛痒さが現れる事があります。アレルギー反応を抑えるお薬を服用することで症状は治まります。
  • 高額: 治療費がカテーテル治療とストリッピングに比べて40%ほど高いです。3割負担の方ですと手術料だけでおよそ43000円(カテーテル治療とストリッピングの場合は同額で30600円)かかります。ただし、この数字は手術料だけの金額ですので、その他にも麻酔代や処方箋料などが別途かかります。

3. ストリッピング

概要: ストリッピングは、古典的な下肢静脈瘤の外科的治療法で、病変静脈を物理的に取り除く方法です。静脈に小さな切開を加え、特殊なワイヤーを用いて静脈を引き抜く治療法です。

ストリッピングのメリット:
  • 確実な治療: 静脈を完全に除去できることが最大のメリットです。非常に大きな静脈瘤の場合、カテーテルによる熱では焼灼しきれない事、グルー治療だけでは閉塞しきれない事があります。そのような巨大な静脈瘤にはストリッピングが非常に効果的です。
デメリット:
  • 入院が必要な場合がある: 大きな静脈を取り除く場合、入院が必要となることがあります。また、全身麻酔や静脈麻酔が必要なことが多いため、患者さんの体への負担が大きくなります。
  • 痛みと回復時間が長い: 切開を伴うため、術後の痛みや回復時間が他の方法に比べて長くなる可能性があります。また、抜糸も必要となりますので入浴や運動の再開はカテーテル治療やグルー治療と比較すると遅くなる傾向にあります。
  • 傷跡が残る: 小さな切開跡が残るため、美容面を重視する患者さんにはデメリットとなることがあります。
  • 再発率:再発率についてはカテーテル治療やグルー治療に軍配が上がります。

結論:どの治療法を選ぶべきか?

下肢静脈瘤の治療法を選ぶ際には、患者の症状、静脈の状態、治療に対する期待、そして費用面を考慮することが重要です。
  • レーザーカテーテル治療は、ありとあらゆる形状の下肢静脈瘤に適しており、「皮膚を切らない」「縫わない」「抜糸しない」というメリットから術後の回復が早く、世界的にも現在主流の治療方法となっています。
  • 高周波カテーテル治療は、メリットの面ではレーザーカテーテルに劣りますが、デメリットの面ではグルー治療より優れます。
  • グルー治療は、カテーテル治療やストリッピングと比べて侵襲が少なく、迅速な回復が求められる患者さんに適しています。術後に弾性ストッキングの着用が困難だけれど、こむら返りなどのつらい症状は改善させたい方。見た目の改善までは求めない方などが向いているでしょう。
  • ストリッピングは、かつては静脈瘤手術の王道でした。しかし、時代の流れは低侵襲手術へと向かっています。ストリッピングがメリットを生かせるのは巨大な静脈瘤のケースに限られると思います。
どの治療法を選択するにしても、信頼できる専門医と十分に相談し、自分に合った最良の治療法を見つけることが大切です。治療方法についての正しい理解は最適な治療結果をもたらす第一歩です。