下肢静脈瘤の原因
今回の記事では下肢静脈瘤の発生する原因について解説していきたいと思います。下肢静脈瘤とは？
足の血管がボコボコと浮き出ている状態を「下肢静脈瘤（かしじょうみゃくりゅう）」といい、「瘤」は「こぶ」と読みます。すなわち「静脈瘤」＝「こぶのように膨らんだ静脈」という意味です。
当院の外来を訪れる患者さんの多くは足の血管が浮き出ています。
では、この静脈瘤とはいったい何者なのでしょうか？
静脈と下肢静脈瘤の関係
血液の流れは心臓から始まります。心臓から送り出された血液は「動脈」を通って全身に送り届けられます。
動脈を流れる血液には栄養や酸素がたっぷり含まれており、鮮やかな赤色をしたきれいな血液です。
水道管にたとえると、動脈は上水道の役割をしています。
血液によって運ばれてきた酸素や栄養を使うことによって、全身の細胞は生命活動を営んでいます。
つまり、酸素や栄養というエネルギーを使うことによって人間は生きることができるのです。一方で、細胞がエネルギーを使い終えると、ゴミが出ます。
車もガソリンというエネルギーを利用して走りますが、排気ガスを出しますよね。
では、そのゴミはどうやって捨てられるかというと、静脈に流れていきます。静脈は心臓に戻る帰り道の血管です。
老廃物という血液のゴミは、静脈を通って肝臓で処理されます。
つまり、静脈は下水管、肝臓は下水処理場の役割をしているのです。
きれいになった血液は心臓に戻り、再び全身に送られていきます。
静脈を流れる血液は、地球の重力に逆らって心臓に帰らなければなりません。そこで、血液を下から上に持ち上げる力が必要になります。
静脈還流のメカニズム
血液を下から上に持ち上げる方法は主に2つあります。1.上から吸い上げる
2.下から押し上げる
1.上から吸い上げる方法
息を吸うとき、血液も一緒に下半身から上半身に吸い上げられます。ジュースをストローで飲む時を想像してみてください。
人は静脈という長ーいストローで血液を吸い上げているのです。
これはちょっと大変ですよね
2.下から押し上げる方法
足の静脈の90％ちかくは筋肉の中を縦横無尽に流れています。これを「深部静脈」と言います。
大都市の地下を縦横無尽に走る地下鉄に似ています。
足の筋肉が伸び縮みすると、静脈を外側から圧迫して血液が上に押し上げられます。「足は第二の心臓」といわれるのは、足の筋肉によるこのポンプ作用を指すのです。
マヨネーズを押し出すのと同じ原理です。
このようにして、足の静脈にたまっている血液は重力に逆らって上に流れていくことができるのです。血液が重力により落下しないようにする仕組み
息を吸ったり、足の筋肉を動かすことで上に流れた血液も、息を吐く時や足の筋肉を動かさないと重力で下に戻ってしまいます。しかし、静脈には特別な構造があるので逆流することはありません。
それが逆流防止弁です。
静脈には、重力による血液の落下を防ぐために一方通行に開く扉が備わっています。
この弁は静脈の中に多数存在します。
息を吸う時、足の筋肉が動いた時など、血液が下から流れてきたときに弁が開きます。
血液は弁が閉じたところで一度止まります。
再び息を吸った時、足の筋肉が動いた時に血液は次の弁の方へ流れていきます。
下肢静脈瘤の原因とメカニズム
血液が重力により落下しないようにするための静脈弁ですが、さまざまな理由によって、弁がきちんと閉じなくなることがあります。主な原因には次のようなものが挙げられますので、ぜひ参考にしてください。
1.立ち仕事（デスクワーク）
2.妊娠・出産
3.遺伝
4.加齢
5.肥満
6.便秘
7.性別
1.立ち仕事（デスクワーク）
調理師・美容師・警備員・クリーニング店など、長時間同じ場所に立ちっぱなしのお仕事をされている方は、足の筋肉によるポンプ作用があまり働きません。
第二の心臓が動かないので、足の静脈には血液が溜まりがちとなります。静脈は風船のように柔らかい弾力のある血管ですので、長時間血液が溜まりっぱなしという状況が長期間続くと伸びてしまいます。
すると静脈弁が伸びてしまい、ピタッと閉じなくなってしまうのです。
立ち仕事をしていなくても、長時間同じ姿勢でじっとしている方も足の筋肉のポンプ作用が働きません。そのため、立ち仕事の方と同様に静脈弁に負担がかかることになります。
最近はコロナ渦で在宅勤務の方が増えました。そのため、自宅で長時間のデスクワークをすることにより下肢静脈瘤になりやすい環境にあると思います。
2.妊娠・出産
出産経験者の2人に1人は静脈瘤を発症するというデータがあります。その原因として考えられているのが、以下の3つです。
① 母体の血液量の増加
② 女性ホルモンの増加
③ 子宮による静脈の圧迫
母体の血液量の増加
妊娠中は、赤ちゃんを育てなくてはなりませんので、お母さんの体の中を流れる血液の量が40～50％増加するといわれています。そのため、全身の静脈はパンパンの状態となり、特に重力の影響を受けやすい足の静脈には大きな負担がかかります。
妊娠中の約9か月間は、足の静脈にとってはとても過酷な期間と言えます。
女性ホルモンの増加
妊娠中は女性ホルモンが数十倍～100倍に増加すると言われています。女性ホルモンは血管の拡張作用があるため、妊娠後期になるほど静脈は伸びやすくなります。
子宮による静脈の圧迫
妊娠週数が進んで胎児が大きくなると、大きくなった子宮が骨盤の中で静脈を圧迫します。すると足から流れてきた血液は砂時計のように流れにくくなります。
足の静脈にとってはつらい状況しかないですね。パンパンに引き伸ばされていた静脈も、出産後にはある程度まで戻りますが、
伸び切ったゴムのように太くなった静脈が元に戻らず、そのまま静脈瘤ができてしまう方もいらっしゃいます。
一般的には2人目の妊娠から静脈瘤が目立つようになることが多いようです。
3.遺伝
両親が下肢静脈瘤の場合、90％遺伝するといわれています。どちらかの親が下肢静脈瘤をお持ちの方は、男の子は25％、女の子は62％の確率で遺伝するというデータがあります。
4.加齢
年齢とともに静脈の壁を構成する弾性膜の萎縮と平滑筋の退行がおこり、静脈の壁は徐々に脆くなっていきます。そのため長時間立ちっぱなしで足の静脈に血液が溜まると、静脈が伸びやすくなります。
5.肥満
あまり強い要因ではありませんが、高度の肥満女性は静脈瘤になりやすいというデータがあります。6.便秘
排便のときにいきむと腹圧がかかります。高い腹圧がかかると、下から流れてきた静脈血は圧力によって下に押し戻されてしまいます。
７．性別
女性は女性ホルモンが月経周期に合わせて増加します。女性ホルモンは静脈壁と静脈弁を伸びやすくさせるため、女性のほうが静脈瘤になりやすいのです。
静脈弁が閉じなくなると何が起きるか
静脈弁がキチンとと閉じなくなると、血液は弁のすきまからこぼれ落ちて逆戻りしてしまいます。
静脈は、下から上に一方通行で流れる血管です。静脈の血液が逆流するということは、一方通行の道路で車が逆走してくることと変わりません。
その場面を想像してみてください。車は動けなくなりますよね。
つまり、血液は交通渋滞をおこすようになります。
静脈内で血液が渋滞すると、静脈はパンパンになりますので徐々に太くなっていきます。
静脈が太くなると弁が引き伸ばされて、余計に閉じなくなります。
すると血液の逆流がさらに増え、血液の渋滞がさらに悪化する、という悪循環に陥ってしまうのです。
静脈がクネクネ曲がるのには理由があります。
川の流域面積が増えるとクネクネしますよね。そうして川の水をたたえることができるよう、クネクネするのです。
世界一の流域面積を誇るアマゾン川がその最たる例です。
弁が故障しやすい静脈がある
静脈弁が故障しやすい静脈は、体の表面を走る「表在静脈」と呼ばれる静脈です。表在静脈には、くるぶし～すね～太ももの内側を走る「大伏在静脈」と、ふくらはぎを走る「小伏在静脈」の2本の静脈があります。
この2本の静脈は周囲が皮下脂肪という柔らかい組織なので、静脈がパンパンに伸びてしまっても、それを抑えることができないのです。
そにため表在静脈は弁がダメになりやすいのです。
足の中心部の深いところを走るのが「深部静脈」です。深部静脈は周りを筋肉に囲まれており、常に筋肉によって四方から圧迫されています。
周りを頑丈な鎧で覆われているようなものなので、深部静脈はパンパンになっても静脈自体は伸びにくいのです。
したがって、深部静脈の弁は滅多なことでは故障しません（深部静脈は、血栓症が起こらない限り、弁の逆流は起こすことはありません）。
静脈瘤は「原因」ではなく「結果」としてできたもの
逆流を防ぐ弁がダメになってしまった表在静脈に血液が流ると、当然のことながら上に流れることができません。呼吸によって行ったり来たり、立ち往生するだけです。
そこで、血液は弁が正常に機能している静脈に迂回しなければ心臓に戻ることができません。
つまり、ボコボコと浮き出た静脈瘤は、逆流している静脈から、正常な静脈へのバイパス道路なのです。
本当の黒幕は表には出てこない
このように、下肢静脈瘤は表在静脈の弁逆流によって血液が渋滞した結果、仕方なく体の表面に現れてくるものとなっています。下肢静脈瘤は見た目が悪いため、それ自体が何か悪い病気のように思ってしまいがちです。
しかし、これは結果としてできたものになります。
静脈瘤ができる原因は、その上流にある表在静脈の弁の故障によって起こる血液の逆流なのです。
静脈弁の故障による血液の逆流は、体の外見からは見ることができません。
事件の黒幕は決して表には出てこないのと同じ理屈です。
ボコボコと浮き出た静脈瘤の存在により、血液の逆流の存在を推測することはできますが、血液の逆流は超音波検査を行わないと確認することができません。したがって、足の血管が浮き出ている方は、自覚症状の有無にかかわらず、一度超音波検査を受けてみてください。
下肢静脈瘤でお悩みの方は、下肢静脈瘤ひとすじ26年の専門クリニック目黒外科にご相談ください。
