
クモの巣状静脈瘤の原因・症状・治療法を下肢静脈瘤専門医が詳しく解説
太ももやふくらはぎの皮膚表面に赤紫の毛細血管がクモの巣のように浮かび上がる「クモの巣状静脈瘤」。特に女性に多く見られ、美容面でも気になるこの症状。なぜ発生するのか、どう対処すべきか、下肢静脈瘤専門医がわかりやすく解説します。クモの巣状静脈瘤の原因|女性ホルモンとの関係
主な原因として、女性ホルモン(エストロゲン・プロゲステロン)による血管への影響が挙げられます。これらのホルモンは血管を拡張させる作用を持ち、特に毛細血管の壁を柔らかくし、弾力性を低下させるため、皮膚表面の血管が広がりやすくなります。妊娠中にはエストロゲンやプロゲステロンの分泌が増加し、さらに胎児の成長によって骨盤内の静脈が圧迫され、下肢への静脈還流が悪化することも重なり、クモの巣状静脈瘤の発生リスクが高まります。
また、更年期前後のホルモン変動や、経口避妊薬(ピル)やホルモン補充療法(HRT)の影響でも、静脈の拡張や血管新生(新しい血管の形成)が促され、発症しやすくなるとされています。
つまり、女性ホルモンの分泌量やバランスが大きく変化するタイミングでは、血管が一時的に不安定な状態となり、皮膚表面にクモの巣状に広がる毛細血管拡張(=クモの巣状静脈瘤)が現れやすくなるのです。
症状と見た目の特徴
クモの巣状静脈瘤は、肌の表面に赤や紫の細く拡張した毛細血管が、まるでクモの巣のように放射状や網目状に広がるのが特徴です。最も多く見られる部位は、太ももの外側やふくらはぎの裏側、足首周辺などで、特に立ち仕事やホルモン変動の影響を受けやすい部位に好発します。多くの場合は見た目だけの問題で、痛みやかゆみなどの症状は伴いませんが、中には「チクチクするような違和感」「ピリピリとした軽い痛み」「熱感」「かゆみ」などを訴える方もいます。
また、日によって血管の色味が濃く見えることがあり、気温や体調、疲労度、女性ホルモンの周期などによって変動するケースもあるため、「昨日より目立って見える…」と不安を抱かれる方も少なくありません。
クモの巣状静脈瘤は放置しても大丈夫?
よくある誤解のひとつに、クモの巣状静脈瘤を放置すると「そのうちボコボコとした大きな静脈瘤に進行してしまうのでは?」という不安があります。しかし、実際にはクモの巣状静脈瘤は下肢静脈瘤とは異なる病態であり、放置しても太く蛇行した静脈瘤に変化することはありません。
クモの巣状静脈瘤は医学的には「毛細血管拡張症」と呼ばれ、皮膚のすぐ下にある非常に細い毛細血管が拡張して見える状態です。これはあくまでも「表在性の血管変化」であり、深部の静脈に逆流や圧力の異常がある下肢静脈瘤とは明確に区別されます。
このため、健康への深刻な影響はなく、血栓や皮膚潰瘍などを引き起こす心配もありません。治療の対象となるのは、主に「見た目が気になる」「美しく整えたい」といった美容的な理由がほとんどです。
ただし、範囲が広がる・本数が増えることはありますので、見た目に違和感がある方や不安を感じる方は、専門医による診察で下肢静脈瘤との区別をしっかりつけることが大切です。

予防法|日常生活でできる対策
クモの巣状静脈瘤の発症リスクを少しでも下げるためには、日常生活の中で以下のような習慣を意識することが有効です。
長時間の立ちっぱなし・座りっぱなしを避ける
長時間同じ姿勢でいると、下半身の血流が滞りやすくなります。可能であれば1時間に1回は立ち上がって軽く足を動かしたり、つま先立ちを繰り返したりするだけでも血流改善に役立ちます。 👉 立ち仕事や座り仕事による静脈の影響と、その対策方法を知りたい方はこちらをご覧ください。適度な運動(ウォーキングやストレッチ)で血流を促す
ふくらはぎの筋肉は「第二の心臓」と呼ばれるほど、静脈の血液を心臓に押し戻すポンプの役割を果たしています。ウォーキングや足首の回旋運動などで下肢の筋肉を動かすことが、静脈の健康維持につながります。適正体重の維持
体重が増えると脚にかかる負担が増し、静脈への圧力も高まります。バランスの取れた食事と継続可能な軽い運動を心がけることが、血管への負担軽減につながります。締めつけの強い衣類やハイヒールを避ける
特に鼠径部(太もものつけ根)を強く圧迫する下着やガードルは、下半身の静脈還流を妨げることがあります。ハイヒールもふくらはぎの筋肉ポンプの働きを低下させるため、長時間の使用は避けた方が無難です。
ただし、これらはあくまで「リスクを減らすための生活習慣」に過ぎません。クモの巣状静脈瘤の主な原因は体質やホルモンの変動にあるため、完全に防ぐことは難しいのが現実です。
そのため、もし実際にクモの巣状静脈瘤が現れてしまった場合は、専門医による診察を受け、症状の程度や本人のご希望に応じて適切な治療を検討することが最も現実的かつ安心な対処法となります。
治療法|硬化療法について
クモの巣状静脈瘤に対する代表的な治療法として、「硬化療法(こうかりょうほう)」があります。これは、極細の注射針を使用して、硬化剤と呼ばれる薬剤を拡張した毛細血管内に注入し、血管を閉塞・退縮させる治療法です。
硬化剤は血管の内壁に炎症を起こさせ、血管をしぼませて最終的に体内に吸収させる仕組みです。注射直後から血管の赤みや紫色が徐々に薄くなり、多くの方は数週間〜数ヶ月で目立たなくなります。
治療は外来通院で数分〜十数分程度で完了し、日帰りで受けることができます。注射の痛みもごく軽く、「チクッとする程度」で終わる方がほとんどです。
クモの巣状静脈瘤は見た目が主な問題であるため、保険適用の対象となるかどうかは症状の程度や部位、医師の判断によって異なりますが、保険が適用されるケースでは1回あたりの自己負担額はおよそ6,000円(3割負担の場合)となります。
また、施術後は当日のみ入浴を控える必要があるものの、翌日からは普段通りの生活に戻れます。お仕事や家事をされている方でもスケジュールに大きな負担なく治療が可能です。
注意点
硬化療法は比較的安全性の高い治療法ですが、いくつかの注意点があります。事前に理解しておくことで、不安を軽減し、治療後の経過をより安心して過ごすことができます。
施術部位に一時的な色素沈着(シミ)が生じることがあります
硬化剤を注入した部位に、茶色っぽい色素沈着が見られることがあります。これは血液成分が皮下にしみ出し、皮膚に沈着することで起こるものです。多くは3〜12ヶ月ほどで自然に薄くなっていきますが、まれに完全に消えないこともあります。血管が細すぎる場合、注射が難しいこともあります
クモの巣状静脈瘤は非常に細い毛細血管であるため、血管の太さや走行によっては針がうまく刺さらなかったり、薬剤が十分に入らない場合があります。そのような部位は無理に施術せず、経過観察や他の部位を優先する判断をすることもあります。施術当日の入浴は控える必要があります
治療後は注射部位を弾性包帯やストッキングで圧迫するため、当日は入浴・シャワーは不可となりますが、翌日からは通常通りの入浴・生活が可能ですので、大きな制限はありません。
👉 硬化療法がどんな方に適しているか、治療の流れや注意点について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
よくあるご質問(FAQ)
Q. クモの巣状静脈瘤は自然に治りますか?
A. 残念ながら、クモの巣状静脈瘤が自然に消えることはほとんどありません。拡張してしまった毛細血管は時間が経っても元に戻らず、むしろ加齢やホルモンバランスの変化によって数や範囲が広がっていく傾向があります。見た目が気になる場合や、かゆみ・ヒリヒリ感などの症状がある場合には、医師による診察と治療の検討をおすすめします。Q. 放置すると下肢静脈瘤に進行しますか?
A. 進行しません。クモの巣状静脈瘤は、皮膚のすぐ下にある毛細血管が拡張した「毛細血管拡張症」であり、静脈弁の異常によって発生する下肢静脈瘤とは病態が異なります。見た目が気になることはあっても、放置して健康に重大な悪影響を及ぼすことは基本的にありません。Q. 保険は適用されますか?
A.クモの巣状静脈瘤に対する治療は、健康保険が適用されます。ただし、保険診療での治療は自由に何回でも受けられるわけではなく、診療報酬制度に基づいて回数や頻度が制限されています。たとえば、1か月に複数回の硬化療法を希望される場合でも、保険での算定が可能な回数には上限があります。 そのため、具体的な治療スケジュールや保険の適用範囲については、事前に医師とご相談のうえで進めていくことが大切です。
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