
【専門医監修】下肢静脈瘤の合併症|血栓性静脈炎とは?原因・症状・治療法・予防まで
足の血管に痛みや腫れを感じたことはありませんか?「ただの静脈瘤」と油断すると、血栓ができて厄介なな合併症を引き起こすこともあります。この記事では、下肢静脈瘤の代表的な合併症である血栓性静脈炎について、原因、症状、診断法、治療、予防策を専門医がわかりやすく解説します。
血栓性静脈炎とは?
血栓性静脈炎とは、皮膚のすぐ下を走る表在静脈に血栓(血の塊)ができ、それによって血管の内壁に炎症が生じる病気です。特に下肢静脈瘤を持つ方に多く見られ、もともと血流が滞りやすい静脈瘤の部分で血栓が形成されることで発症します。
発症すると、血栓ができた部分に沿って赤く腫れたり、熱感や痛みを伴うことがあり、見た目にも皮膚が硬く盛り上がって見えることがあります。炎症は血栓のある範囲に広がり、時には歩行時に強い痛みを感じることもあります。
通常、表在静脈にとどまるため命にかかわることは少ないものの、ごくまれに血栓が深部静脈へ波及することがあり、その場合はより重篤な「深部静脈血栓症(DVT)」へ進行するリスクがあるため注意が必要です。
特に、長時間の座位や立位、外傷、脱水、手術後などが引き金となりやすく、下肢静脈瘤がある方はこうしたリスク因子にも十分注意が必要です。
血栓性静脈炎が起こる原因
- 血流の停滞:静脈瘤による血液の逆流・うっ滞が血栓形成を促進します。
- 血液の性状変化:脱水や病気により血液が濃縮され、血栓ができやすくなります。
- 長時間の安静:手術後や長距離移動中に足を動かさないことが血流低下を招きます。
血栓性静脈炎の症状
血管に沿った硬いしこり
血栓が形成された部分では、血管に沿ってゴリゴリとした硬いしこりが触れられるようになります。このしこりは皮膚表面からもわかることがあり、押すと鋭い痛みを感じたり、患部を動かすと引きつれるような痛みが生じることもあります。しこりは時間とともに広がったり、硬さが増すこともあります。
皮膚の赤み・熱感
血栓による炎症が進むと、患部の皮膚が赤くなり、触れると熱を持っているのがはっきりとわかります。見た目にも炎症の境界線がわかるほど赤みが広がる場合があり、特に静脈瘤に沿って帯状に変化が現れるのが特徴です。
痛み・腫れ
炎症に伴って、患部がズキズキと脈打つような痛みを感じるようになります。歩行や立ち上がり動作など、下肢に負担がかかると痛みが強まることが多く、安静にしていても違和感が残ることもあります。また、局所的に腫れやむくみを伴うこともあり、症状が進むと患部をかばうために歩き方が不自然になる場合もあります。
軽い発熱・倦怠感
炎症が強くなると、局所症状だけでなく軽い発熱や全身のだるさ(倦怠感)が現れることもあります。これは、炎症によって体内でサイトカイン(炎症を引き起こす物質)が増加するためであり、重症化のサインでもあります。発熱や強い倦怠感が出た場合は、速やかに医療機関を受診することが重要です。
診断方法|血栓の位置・重症度を正確に把握
視診・触診
まず、医師が目視と手で触れて行う診察(視診・触診)によって、皮膚の状態や血管の変化を確認します。血栓ができた部分では、皮膚の赤み、腫れ、そして血管に沿った硬結(硬いしこり)が見られることが多く、これらの所見から血栓性静脈炎が疑われます。さらに、患部を押した時の痛みの有無や硬さの程度、熱感なども細かくチェックし、炎症の進行具合を推測します。
超音波検査(ドップラーエコー)
次に、超音波(エコー)検査を用いて血管の内部をリアルタイムで観察します。血栓が存在する静脈は、通常よりも内腔が狭くなったり、血流が途絶えたりしているため、血栓の位置や大きさ、どの範囲に及んでいるかを詳細に把握することが可能です。また、深部静脈(太ももやふくらはぎの奥深くを走る血管)まで血栓が波及していないかも慎重に評価します。深部静脈まで血栓が及んでいる場合は、肺塞栓症など重大な合併症のリスクがあるため、特に注意が必要です。
血液検査
血液検査では、炎症や血栓形成に関連する数値を調べます。具体的には、CRP(C反応性タンパク)値を測定して体内の炎症の程度を把握し、さらにDダイマー値を確認して血液中に血栓が分解される過程で生じる物質の増加をチェックします。Dダイマーが高値であれば、体内のどこかで血栓ができている可能性が示唆され、必要に応じて追加検査や治療方針の見直しが行われます。
血栓性静脈炎と手術治療について
手術を控えるべき場合
急性期の強い炎症がある場合血栓性静脈炎の急性期では、患部に強い赤み、腫れ、疼痛、熱感が現れます。この段階では、まず炎症を抑えることが最優先となります。治療としては、消炎鎮痛薬(NSAIDs)の内服や、患部への冷却療法が行われます。症状やリスクに応じて、抗凝固療法(血栓の拡大を防ぐために血液をサラサラにする薬の使用)も併用されることがあります。特に炎症が強い場合は、安静を保ちながら足を心臓より高い位置に挙上することも推奨されます。
深部静脈血栓症(DVT)の疑いがある場合
血栓が表在静脈にとどまらず、深部静脈まで広がっている可能性がある場合は、より緊急性の高い対応が求められます。深部静脈血栓症(DVT)は、血栓が血流に乗って肺に到達し、肺塞栓症を引き起こすリスクがあるためです。この場合、**ヘパリンやDOAC(直接作用型経口抗凝固薬)**といった抗凝固薬を使用して、血栓の進行と新たな血栓形成を防ぐ治療が優先されます。必要に応じて入院管理が行われ、慎重にモニタリングされます。
手術が可能な場合
手術が可能な場合症状が落ち着いた後や、血栓の波及範囲が限定的な場合には、原因となっている静脈瘤や病的な血管を除去する手術(血管切除術や静脈瘤手術)が検討されます。特に、再発を防止したい場合や、慢性的な痛み・見た目の問題を改善したい場合には、根治的治療として有効です。現在では、負担の少ない日帰り手術(レーザー治療、高周波治療など)が主流となっており、術後も比較的早期に社会復帰が可能です。手術適応かどうかは、炎症が完全に治まった後に改めて検討されます。
治療の流れ
診断:超音波検査で血栓の位置や重症度を評価
診断の基本となるのは超音波検査(ドップラーエコー)です。この検査により、血栓ができている静脈の場所、範囲、血流の有無をリアルタイムで確認することができます。また、血栓が表在静脈に限局しているのか、あるいは深部静脈へ波及しているか(深部静脈血栓症:DVT)も詳細に評価され、今後の治療方針を決めるうえで非常に重要な情報となります。
急性期治療:消炎鎮痛薬、弾性ストッキング着用、抗凝固療法を実施
急性期には、まず消炎鎮痛薬(NSAIDs)を用いて炎症や痛みをコントロールします。同時に、患部の静脈の血流をサポートし、血栓の進行を防ぐために弾性ストッキングの着用が推奨されます。さらに、血栓の拡大や新たな血栓形成を防ぐために、症状やリスクに応じて**抗凝固療法(ヘパリン、DOACなど)**が開始されることもあります。安静だけに頼らず、適度な歩行を促し、血流を維持することも重要です。
手術治療:血管内焼灼術(レーザー・高周波)または血管内塞栓術(グルー治療)を検討
血栓性静脈炎の原因となっている静脈瘤や機能不全静脈を根本から治療するために、血管内治療が検討されます。代表的な方法としては、**血管内レーザー焼灼術(EVLA)や高周波アブレーション(RFA)があり、これらはいずれもカテーテルを用いて血管内部から加熱して閉塞させる治療法です。また、近年では血管内塞栓術(医療用接着剤:グルー治療)**も登場しており、熱によるダメージを避けたい患者さんにも選択肢が広がっています。これらの手術は通常、局所麻酔で日帰りで受けられることが多く、身体への負担も少ないのが特徴です。
術後ケア:新たな血栓予防のために弾性ストッキングを継続使用
手術後も、再発防止のために一定期間弾性ストッキングの着用が推奨されます。これにより、手術後の静脈血流をサポートし、新たな血栓の形成を防ぐ効果が期待できます。また、術後は早期の歩行を心がけ、血流促進と深部静脈血栓症予防を図ることも重要です。術後経過に応じて、定期的な超音波検査によるフォローアップも行われます。
まとめ|早期発見・早期治療が命を守ります
血栓性静脈炎は、一見軽い症状に見えても決して油断できない病態です。放置してしまうと、血栓が深部静脈へ広がり、深部静脈血栓症(DVT)や肺塞栓症(PE)といった重篤な合併症へと進行する可能性もあります。これらは命にかかわる危険性を含むため、早期発見と的確な対応が非常に重要です。
「最近、足に違和感がある」「皮膚が赤く腫れている」「血管がゴリゴリと硬く感じる」
このような症状を自覚したら、決して放置せず、自己判断を避けて、できるだけ早く専門医の診察を受けることをおすすめします。
目黒外科では、下肢静脈瘤・血栓性疾患に特化した経験豊富な医師が在籍しており、超音波(エコー)検査による正確な診断を行っています。血栓の有無や広がりを丁寧に確認し、症状の程度やリスクに応じた最適な治療方針をご提案いたします。
治療だけでなく、再発予防や日常生活での注意点までしっかりサポートいたしますので、「ちょっと気になるかも…」という段階でも、どうぞお気軽にご相談ください。
安心して診てもらえる専門クリニックが、あなたの不安にしっかり寄り添います。
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