
ふくらはぎが痛いのはなぜ?血管の病気との関係と受診の目安を解説
こんにちは、目黒外科の院長・齋藤陽です。今回は、多くの方が日常生活の中で一度は経験する「ふくらはぎの痛み」について取り上げます。一見、単なる筋肉疲労や立ち仕事による影響と思われがちですが、実はその裏に見逃してはいけない血管の病気が隠れていることもあります。
特に注意が必要なのが、下肢静脈瘤や深部静脈血栓症(DVT)といった血管疾患です。これらは早期に対処すれば症状の進行を防ぐことができますが、放置すれば重大な合併症を招くこともあります。
本記事では、ふくらはぎの痛みの代表的な原因から、医師が診察時に重視するポイント、受診の目安までをわかりやすく解説していきます。
ふくらはぎの痛みの一般的な原因
ふくらはぎの痛みは、筋肉疲労や立ち仕事による疲れと思われがちですが、深刻な病気のサインであることも。運動や長時間の立位・座位による負荷が一因であることもありますが、痛みが片足だけに集中する、長引く、むくみや色の変化を伴うなどの症状がある場合は注意が必要です。1. 下肢静脈瘤
表在静脈にある逆流防止の静脈弁が壊れると、重力に逆らって心臓へ戻るはずの血液が足先へと逆流し、静脈内にうっ滞(停滞)するようになります。この血液の逆流と滞留が原因で、ふくらはぎのだるさや鈍い痛み、夕方以降に悪化するむくみ、さらには皮膚の色が茶色く変色する色素沈着などの症状が現れます。

特に、長時間立ちっぱなしでいる職業の方(美容師・調理師・販売員など)、妊娠・出産を経験された方、そして加齢によって静脈弁の機能が低下した中高年層では、この静脈弁の障害が起こりやすく、下肢静脈瘤のリスクが高まります。
症状が進行すると、皮膚が慢性的に炎症を起こすうっ滞性皮膚炎や、皮膚が破れて治りにくくなる静脈性潰瘍(皮膚潰瘍)といった深刻な状態に至ることもあります。

そのため、ふくらはぎの不調や見た目の異変に気づいた段階で、早期に専門医の診察を受けて正確な診断と適切な治療を受けることが極めて重要です。
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2. 深部静脈血栓症(DVT)
ふくらはぎの深部を走る「深部静脈」に血栓(血の塊)ができる病気が、深部静脈血栓症(DVT:Deep Vein Thrombosis)です。この血栓が血管をふさぐことで、ふくらはぎにズキズキとした痛み、腫れ、熱感(熱を持つ)、皮膚の赤みや色の変化といった症状が現れます。特徴的なのは、これらの症状が片脚だけに起こることが多いという点です。
血栓がふくらはぎの静脈にとどまっている間は局所症状にとどまりますが、血流に乗って肺の血管に詰まると「肺塞栓症(PE)」という命に関わる状態に進展する危険性があります。肺塞栓症を発症すると、突然の胸の痛み、息切れ、呼吸困難、動悸、最悪の場合は意識消失や突然死に至る可能性があるため、極めて注意が必要です。

特に以下の方はリスクが高いとされています:
- 長時間の飛行機移動・車移動(エコノミークラス症候群)
- 手術後の安静期間
- 妊娠・産後
- 高齢者
- 喫煙者
- がん患者
- ホルモン治療(経口避妊薬・更年期治療など)中の女性
ふくらはぎに違和感がある、片脚だけ腫れている、押すと痛む、皮膚の色が変わってきた――そのような場合は、単なる筋肉痛や疲労と見逃さず、できるだけ早く血管外科や循環器内科などを受診し、超音波(エコー)検査を受けることが重要です。
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3. 坐骨神経痛
坐骨神経痛は、腰から足先まで伸びる「坐骨神経」が何らかの原因で圧迫・刺激されることによって生じる症状です。典型的には、お尻から太ももの裏側、ふくらはぎ、足先にかけて、電気が走るような鋭い痛みやしびれ、灼熱感、チクチクとした違和感が現れます。片側の脚に症状が出ることが多く、痛みが強い場合には歩行が困難になったり、夜も眠れないほどになることもあります。
原因として多いのが、腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症などによる神経根の圧迫です。これらの疾患は、加齢や姿勢不良、重い物の持ち上げ、長時間の座り姿勢が誘因になることがあります。また、長距離ドライバーやデスクワーク中心の生活を送っている方にも多く見られます。
ふくらはぎの痛みが「血管」由来か「神経」由来かを見極めることは重要であり、しびれを伴う、腰やお尻に連動して痛む、座っていると悪化するといった特徴がある場合には、整形外科でのMRI検査や神経学的評価が推奨されます。
4. 肉離れ(筋挫傷)
スポーツや運動中の急な動作(ダッシュ、ジャンプ、方向転換など)によって、ふくらはぎの筋繊維が部分的または完全に断裂することで発症するのが「肉離れ」です。
突然「ブチッ」と音がしたように感じたり、強い痛みとともにその場で動けなくなることもあります。患部には腫れ、内出血(青紫のあざ)、圧痛が現れ、歩行困難になるケースも少なくありません。
肉離れは損傷の程度により軽度(I度)・中等度(II度)・重度(III度)に分類され、重症度によって治療期間や方法が異なります。初期の48〜72時間は「RICE処置」(Rest=安静、Ice=冷却、Compression=圧迫、Elevation=挙上)が基本ですが、マッサージや入浴などの誤った対応は炎症を悪化させ、治癒を遅らせる原因となります。
また、ふくらはぎの痛みを単なる肉離れと誤解し、深部静脈血栓症(DVT)や下肢静脈瘤などの血管疾患を見逃すリスクもあります。数日経っても痛みが引かない、腫れが強くなる、歩行が困難な場合は、医療機関での診断を受けることが重要です。
5.ベーカー嚢腫破裂
ベーカー嚢腫(膝窩嚢腫)の破裂も、ふくらはぎの急な痛みや片脚の腫れを引き起こす原因の一つです。
これは、膝の裏側(膝窩部)にできた関節液を含む袋状の腫瘤が、外傷や過度な屈伸運動などをきっかけに破れることで、滑液がふくらはぎに漏れ出し、炎症や浮腫を生じる状態です。
破裂後は、ふくらはぎの急激な腫れ・熱感・痛みが出現し、その症状が深部静脈血栓症(DVT)に非常によく似ているため、血栓を疑って血管外科や救急外来を受診するケースが少なくありません。
整形外科でレントゲン撮影をしても骨や関節には異常が見られないため、原因不明のまま紹介受診されることもあります。しかし、超音波検査(エコー)で膝裏の嚢腫破裂と、漏れた関節液がふくらはぎに広がっている像が確認されることで、確定診断がつきます。
治療は通常、安静・アイシング・消炎鎮痛薬の内服など保存療法が中心となり、症状が落ち着けば自然に吸収されることがほとんどです。
ただし、鑑別すべき重要疾患が深部静脈血栓症(DVT)であるため、放置せず適切な診断を受けることが非常に重要です。
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6.蜂窩織炎
ふくらはぎが赤く腫れて熱を持ち、押すと強く痛む場合、蜂窩織炎(ほうかしきえん)という皮膚や皮下脂肪の細菌感染が疑われます。蜂窩織炎は、皮膚の小さな傷や虫刺され、水虫、靴ずれなどをきっかけに細菌(主に溶連菌や黄色ブドウ球菌)が皮下に侵入し、急速に炎症を引き起こす病気です。糖尿病や高齢者、免疫力が低下している方では発症リスクが高くなります。
症状としては:
- 局所の赤み、腫れ、熱感、痛み
- 発熱や寒気などの全身症状
- 症状が片足だけに出るのが特徴的
また、DVT(深部静脈血栓症)との鑑別が重要であり、医師による超音波検査や血液検査(白血球数やCRP)で見分けます。
ふくらはぎの痛みと病気の見分け方
片足だけが痛い場合は、深部静脈血栓症(DVT)や下肢静脈瘤といった血管疾患の可能性があります。特に、痛みとともに腫れ・むくみを伴っていれば、静脈の中に血栓ができて血流が滞っているサインかもしれません。ふくらはぎや足全体が赤く腫れて熱を持っている場合は、血栓や皮膚・皮下組織の感染(蜂窩織炎など)の疑いがあり、早期の診察が必要です。感染性の場合は抗菌薬の投与、血栓性であれば抗凝固療法を含む専門的治療が求められます。
運動中に「ブチッ」という断裂音とともに激痛が走った場合は、肉離れ(筋挫傷)の可能性が高いです。筋線維が部分的にまたは完全に断裂することで、強い痛み・腫れ・内出血が生じます。早期の冷却・圧迫・安静(RICE処置)が重要で、無理なマッサージや運動は避けましょう。
お尻から太もも・ふくらはぎにかけてビリビリするようなしびれや痛みがある場合は、坐骨神経痛を疑います。これは腰椎の椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などで坐骨神経が圧迫されることで起こる神経症状です。整形外科や神経内科での評価が必要です。
ベーカー嚢腫の破裂も、突然のふくらはぎの腫れ・痛みの原因となることがあります。これは膝裏にある関節液の袋(ベーカー嚢腫)が破れて、滑液がふくらはぎに漏れ出し、DVTに似た症状を引き起こします。レントゲンでは異常が見つからないことも多く、超音波検査(エコー)での鑑別が重要です。
よくある質問(FAQ)
Q:片足だけふくらはぎが痛いのは病気ですか?
A:はい、片足だけのふくらはぎの痛みは、特定の病気のサインであることが少なくありません。
代表的な鑑別疾患には以下のようなものがあります:
深部静脈血栓症(DVT):太ももやふくらはぎの深部静脈に血栓ができる病気で、腫れ・熱感・皮膚の赤みを伴います。放置すると肺塞栓症になるリスクがあり、一刻も早い診断と治療が必要です。
下肢静脈瘤:血液の逆流により静脈が膨らみ、だるさ・むくみ・皮膚の色素沈着・夜間のこむら返りなどが現れます。進行すると皮膚潰瘍を起こすこともあります。
坐骨神経痛:腰からお尻、太もも、ふくらはぎ、足先にかけて電気が走るようなしびれや鋭い痛みが特徴です。椎間板ヘルニアなどが原因で、座ると悪化する傾向があります。
肉離れ:スポーツ中の急な動きで筋繊維が断裂し、ふくらはぎに強い痛み・腫れ・内出血が起こります。受傷時に「ブチッ」と音がすることもあります。
ベーカー嚢腫の破裂:膝裏の関節包が腫れて破れ、ふくらはぎに痛みと腫れが広がることがあります。エコー検査で確認されることが多く、深部静脈血栓症との鑑別が重要です。
蜂窩織炎:細菌感染による皮膚と皮下脂肪の炎症で、発熱・赤み・熱感・圧痛を伴います。糖尿病や高齢者では重症化しやすく、抗菌薬による早期治療が必要です。
このように、「片足だけが痛い」場合は、筋肉や神経の問題だけでなく、血管や感染症の可能性もあるため、自己判断は危険です。血管外科や整形外科で超音波検査を含めた正確な診断を受けることを強くおすすめします。
Q:むくみと痛みの違いをどう判断すればよいですか?
A:むくみだけであれば一過性のこともありますが、「痛み・熱感・赤み」を伴う場合は注意が必要です。
単なるむくみ(浮腫)は、長時間の立ち仕事や塩分過多などで起こることがありますが、次のような症状を伴う場合は病的なサインです:
熱を持っている・押すと強く痛い → 深部静脈血栓症(DVT)や蜂窩織炎の可能性
皮膚が変色している → 静脈瘤やうっ滞性皮膚炎の進行
しびれや放散する痛み → 坐骨神経痛
運動時に突然の激痛が走った → 肉離れの疑い
膝裏の腫れからふくらはぎに痛みが広がる → ベーカー嚢腫の破裂かも
むくみ+痛み+赤みや熱感=ただの疲労ではなく、受診のサインです。
まとめ
ふくらはぎの痛みは単なる疲労かもしれませんが、血管の異常や神経疾患、筋損傷が隠れている可能性があります。特に片足の症状や、むくみ・皮膚の変化を伴う場合は専門医の診察をおすすめします。目黒外科では、血管エコーを用いた精密検査と日帰り治療を提供しています。気になる症状がある方はお気軽にご相談ください。
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