【医師監修】弾性ストッキング(着圧ソックス)で足のつらさを改善|患者さんが知っておきたいポイント
「夕方になると足が重だるい…」「最近むくみやすくなってきた…」
そんなお悩みを抱える方に、ぜひ知っていただきたいのが弾性ストッキング(着圧ソックス)です。
これは、下肢静脈瘤の予防・治療においてとても大切な役割を果たしています。
この記事では、下肢静脈瘤治療を専門とする目黒外科の院長 齋藤陽が、分かりやすく解説します。
弾性ストッキングとは?
弾性ストッキング(着圧ソックス)は、足に一定の圧力をかけることで、血液の流れをサポートし、静脈内に血液がたまりにくくなるよう設計された医療用のサポートソックスです。特に足首からふくらはぎ、太ももにかけて段階的に圧力をかけることで、血液を心臓方向に押し戻す力を助け、血液の逆流やうっ滞(滞り)を防ぎます。
下肢静脈瘤の主な原因は、静脈の中にある「逆流防止弁」の機能低下や破壊です。健康な静脈では、この弁が血液を一方向(心臓方向)へ流すよう働いていますが、弁が壊れてしまうと血液が重力に逆らえず下方向に逆流し、血管が拡張・蛇行してコブ状に浮き出るようになります。

下肢静脈瘤の成り立ち
このような病的な血流を、物理的に圧迫することで正常に近づけ、症状(むくみ、だるさ、痛み)を和らげたり、病状の進行を遅らせたりする役割を果たすのが弾性ストッキングなのです。また、外科的治療の補助や予防目的でも幅広く用いられており、正しい使い方と継続的な着用によって、生活の質(QOL)向上に貢献する重要な治療アイテムといえます。

弾性ストッキング(画像提供:株式会社グンゼ)
弾性ストッキングの仕組みと効果
足首からふくらはぎ・太ももへ、段階的に圧をかける
弾性ストッキングは、足首部分に最も強い圧力がかかり、膝から太ももにかけて徐々に圧が弱くなる「段階的圧迫設計」になっています。これは、人の体の構造と血液の流れに基づいて考案された設計で、下から上へと血液を押し上げやすくするための工夫です。
心臓から遠い足先では、重力の影響でどうしても血液が滞りがちになります。特に下肢静脈瘤がある方は、血液が下にたまりやすく、足のむくみや重だるさ、場合によっては夜間のこむら返りなどの症状が現れます。
弾性ストッキングを着用することで、圧の勾配がポンプのような役割を果たし、筋肉の動きと連動して血液を心臓へとスムーズに戻すことができるようになります。これにより、血液のうっ滞が解消され、むくみやだるさの軽減、さらには静脈瘤の進行予防にもつながるのです。
特に長時間の立ち仕事やデスクワークなど、足を動かさない状況が続く方にとって、血流の補助として非常に有効なアイテムとなっています。
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弾性ストッキングの3つのメリット
1. 日常の足のつらさをやわらげる
弾性ストッキングは、足にかかる適切な圧力で血液の流れをサポートし、日常生活で感じやすい足の「むくみ」「重だるさ」「疲労感」などを軽減する効果があります。特に、長時間の立ち仕事・座り仕事をされている方や、夕方になると足がパンパンに腫れてしまう方には、継続的な着用によって「足が軽くなった」「疲れにくくなった」という実感の声が多く寄せられています。普段の生活に支障をきたすような不快症状を和らげることで、日常の活動量や生活の質(QOL)向上にもつながります。
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2. 下肢静脈瘤の進行を防ぐ
下肢静脈瘤は進行性の疾患であり、初期段階での対処が重要です。弾性ストッキングをまだ血管が大きく膨らむ前の段階から使用することで、血液の逆流を抑え、病状の進行を抑制することができます。
医療機関では、「まだ手術をするほどではないが経過観察中」という患者さんに、まず弾性ストッキングを勧めることが一般的です。
こうした早期からの対処により、見た目の悪化や皮膚の変色・潰瘍といった重度の合併症を未然に防ぎ、結果的に手術を回避できる可能性もあります。
3. 手術後の回復を助ける
弾性ストッキングは、下肢静脈瘤の手術後のアフターケアにも欠かせない存在です。手術後は、一時的に静脈の血流バランスが変化するため、むくみや内出血、血栓形成のリスクが高まります。
術後に弾性ストッキングを着用することで、患部の腫れやむくみを抑え、深部静脈血栓症(DVT:いわゆるエコノミークラス症候群)の発症を予防できます。さらに、圧迫による痛みの軽減や、治療部位の回復を早める効果もあり、快適な術後生活のために多くの医療現場で推奨されています。
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弾性ストッキングを正しく使うために
1. サイズと圧迫度は専門家に相談を
弾性ストッキングは「自分に合ったサイズと圧迫力」でなければ、期待される効果を十分に得られないだけでなく、逆に血流障害や皮膚トラブルの原因になることもあります。市販品を自己判断で購入する方もいますが、適切な圧力(hPaまたはmmHg)と正確なサイズ選びには、医療機関での専門的な測定が不可欠です。
足首・ふくらはぎ・太ももの周囲径や足の長さを朝のうちに計測し、ハイソックス・ストッキング・パンティストッキングなど用途や生活スタイルに応じた長さを選びましょう。また、圧迫度には「弱圧・中圧・強圧」があり、症状や目的(予防/治療/術後)に応じて医師による判断が望ましいでしょう。
2. 着けるタイミングが重要
弾性ストッキングは、「いつ着けるか」によって効果に差が出るといっても過言ではありません。
理想的なのは、朝起きてすぐ、ベッドの上でまだ足がむくんでいないうちに装着すること。このタイミングで着けることで、足の静脈が拡張する前に圧をかけ、1日を通して血流をサポートできます。
特に立ち仕事やデスクワークで足に血液がたまりやすい方、夕方以降に足がだるくなる方は、朝のルーティンにストッキングの着用を組み込むことが予防と軽減のカギとなります。着け忘れた日は、足の疲労感やむくみが強く出ることもあるため、毎日継続的に使用することが大切です。
3. お手入れと交換時期も大切
弾性ストッキングは医療機器であり、毎日の使用と洗濯によって徐々に圧迫力が低下していきます。清潔さを保ちながら、効果を持続させるには正しいケアが不可欠です。
洗濯の際は、中性洗剤を使ってぬるま湯でやさしく手洗いするのが基本。乾燥機や直射日光は弾性繊維を傷めるため避け、陰干しで自然乾燥させましょう。また、使用状況にもよりますが、ストッキングは6か月を目安に買い替えが推奨されます。見た目がきれいでも、弾性が弱くなると効果が大きく低下するため、定期的な交換が必要です。
複数枚をローテーションして使用することで、1枚あたりの寿命を延ばすこともできます。
弾性ストッキングの正しい着け方
「きちんと着けているつもりでも、実は間違っていた…」
そんなケースは少なくありません。以下の手順を守ることで、効果を最大限に引き出せます。
📌 着用手順:
朝起きてすぐの、まだ足がむくんでいないタイミングで着用します。
手のひらで生地をたぐり寄せ、かかと部分を確認してから、つま先を入れます。
足首にしっかり合わせてから、少しずつふくらはぎへ引き上げます。
ねじれ・たるみ・折れがないかを確認します。圧が均等になるように調整してください。
✅ ポイント:長時間座ってから履くと足がすでにむくんでおり、圧迫が不均等になることがあります。
正しい洗い方と保管方法
弾性ストッキングの効果を維持するには、毎日のお手入れがとても大切です。
🧺 洗濯方法:
中性洗剤を使って、30℃以下のぬるま湯で手洗い
こすらず、優しく押し洗い
洗濯機を使う場合はネットに入れてソフトコースで短時間
脱水は軽く、水を切ったらタオルで包んで水分を吸収
🌥️ 乾燥方法:
直射日光はNG。陰干しで自然乾燥が鉄則
乾燥機・ドライヤーも弾性繊維を傷める原因になるため使用不可
🧦 交換の目安:
使用頻度にもよりますが、6か月を目安に新品と交換を
圧力が弱くなったり、生地がゆるんできたと感じたら早めの交換を
患者さんからよくあるご質問
Q. 夜寝るときに弾性ストッキングを着けてもいいの?
A. 基本的には、就寝時の着用はおすすめしません。
弾性ストッキングは立位・座位のときに足へかかる重力に対応するよう設計されています。日中、立ったり座ったりしている時間帯は、どうしても血液が足先にたまりやすくなるため、段階的に圧をかけることで心臓への血流をサポートします。
一方、就寝中は体が横になっているため、足と心臓の高さがほぼ同じになります。この状態では血液の逆流も起こりにくくなるため、ストッキングによる圧迫は不要で、血流を妨げたり、皮膚トラブルの原因になる可能性もあります。
ただし、医師の指示で例外的に夜間着用が勧められるケース(たとえば深部静脈血栓症の予防など)もあります。「夜間も着けたほうがいいのでは?」と感じたときは、自己判断せず、医師に相談してください。
Q. 市販の着圧ソックスでも代用できますか?
A. 軽いむくみ対策であれば使用可能ですが、静脈瘤など症状がある方には医療用が必要です。
ドラッグストアや通販などで販売されている市販の着圧ソックスの多くは、美容目的や軽度の疲労対策用に作られており、医療用に比べて圧迫力が弱い傾向があります。また、「段階的圧迫」になっていない「単なるきつい靴下」である場合もあり、むしろ逆効果になることもあるため注意が必要です。
下肢静脈瘤やむくみなど、明確な症状がある方は、症状に合わせた正しい圧力(hPaまたはmmHg)を医師と相談して選ぶことが大切です。当院でも、実際に足を計測したうえで最適な製品をご案内していますので、「何を買えばいいのかわからない」「通販で買ったけどうまく履けない」といった方は、ぜひご相談ください。
まとめ:弾性ストッキングは正しく使えば強い味方
弾性ストッキングは、下肢静脈瘤の予防・進行防止・術後ケアに欠かせないアイテムです。
「正しいサイズ」「正しい使い方」「正しいタイミング」で使うことが、効果を最大限に引き出すカギとなります。
足の症状が気になる方は、ぜひ一度目黒外科にご相談ください。
あなたに最適なストッキング選びから、正しい使い方まで丁寧にご案内いたします。