
夜中や明け方のこむら返り、それは下肢静脈瘤のサインかもしれません
夜中や明け方、ふとした瞬間に足がつって目が覚めた──そんな経験はありませんか?深い眠りのなかでふくらはぎがピリピリと痛み出す
明け方、寝返りを打った拍子に足がきゅっと引きつる
朝、気持ちよく背伸びをした瞬間にふくらはぎがけいれんしてしまう
もしかしたら、それは単なる「疲れ」や「運動不足」だけではないかもしれません。
実は、こうした夜間や明け方のこむら返りは、下肢静脈瘤という血流の異常が、あなたにそっとサインを送っていることがあるのです。早い段階で気づき、対処することで、足の健康を守ることができます。 「最近よく足がつるな」と感じたら、どうぞ一度、ご自身の体に目を向けてみてくださいね。
下肢静脈瘤とは?
下肢静脈瘤は、足の静脈にある逆流防止弁が壊れることによって発生する病気です。本来、静脈は重力に逆らいながら血液を心臓へ押し戻す役割を担っています。しかし、逆流防止弁が正常に機能しなくなると、血液が下へ逆流し、足の静脈に滞留してしまいます。
この滞った血液には老廃物が多く含まれており、静脈内の圧力が徐々に高まることで、周囲の組織にも悪影響を及ぼすようになります。
その結果、次のような症状が現れるようになります。
- 夕方になると感じる足のだるさや重さ
- 長時間立ったり歩いた後の足の疲れやすさ
- 立ちっぱなしや座りっぱなしで起こる足のむくみ
- 夜間や明け方に突然起こるこむら返り(筋肉のけいれん)
- 皮膚表面に浮き出て目立つ血管
放置して進行すると、次第に皮膚の色素沈着や湿疹・かゆみといった皮膚症状が現れ、さらに悪化すると皮膚潰瘍に至る恐れもあります。
早い段階で気づき、適切な対策を取ることが、足の健康を守るためにはとても大切です。
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下肢静脈瘤がさらに進行すると、足の静脈内に滞った血液が慢性的にうっ滞し、周囲の皮膚や皮下組織に高い静脈圧(静脈高血圧)がかかるようになります。
この静脈うっ滞によって皮膚の血流が悪化し、次第に以下のような症状が現れるようになります。
- 皮膚が茶褐色から黒褐色に変色するうっ滞性色素沈着
- 皮膚のバリア機能が低下し、かゆみや赤みを伴ううっ滞性皮膚炎
- さらに悪化すると、皮膚がもろくなり、わずかな刺激でも傷ができてしまううっ滞性潰瘍(静脈性潰瘍)
また、炎症が起きた皮膚は感染リスクが高く、重症化すると歩行困難になるなど、日常生活に大きな影響を及ぼす恐れもあります。
そのため、下肢静脈瘤は「単なる見た目の問題」ではなく、早期発見・早期治療が極めて重要な疾患だと言えるのです。
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下肢静脈瘤とこむら返りの関係
静脈瘤によって足の静脈に老廃物を多く含む血液が滞ると、筋肉の細胞環境が悪化します。
特に、乳酸や活性酸素などの代謝産物が蓄積することで、筋肉が刺激を受けやすい状態となり、神経や筋肉の興奮性が高まると考えられています。
この結果、睡眠中や明け方に突然ふくらはぎがけいれんする、いわゆるこむら返りが起こりやすくなります。
さらに、就寝中は体を動かすことが少なくなるため、ふくらはぎの筋ポンプ(筋肉が収縮して血流を押し上げる仕組み)が働きにくくなります。
これにより静脈の血流が低下し、静脈内の圧力が上昇。血液の逆流や滞留がさらに悪化し、筋肉への酸素供給が不十分になってしまいます。
下肢静脈瘤によるこむら返りの特徴
こむら返りが夜間や明け方に多く発生する理由のひとつに、寝ている間に無意識に行う「背伸び」があります。
就寝中、体が自然と背伸びをすると、ふくらはぎの筋肉が急激に引き伸ばされます。
この急なストレッチが筋肉の過剰な収縮反応を引き起こし、こむら返りの直接的な引き金となることがあるのです。
特に、下肢静脈瘤がある場合は、すでに静脈血流が滞って筋肉の酸素供給が低下していたり、老廃物が滞っているため、筋肉がわずかな刺激にも反応しやすい状態になっています。
そのため、寝返りや背伸びといった何気ない動作によって、ふくらはぎが急にけいれんし、強い痛みを伴うこむら返りが発生しやすくなるのです。
夜間や明け方に起こるこむら返りには、こうした静脈うっ滞と無意識な動作が関係している可能性が高いと考えられています。
症状の進行パターン
下肢静脈瘤は進行段階によって現れる症状が変化していきます。
■ 初期
夜間や明け方にこむら返り(ふくらはぎのけいれん)が起こる
足のだるさや重さを感じる
この段階では、静脈弁の機能低下が始まったばかりで、血液の逆流や滞留が比較的軽度なため、筋肉への酸素供給不足がこむら返りとして現れやすくなります。
■ 中期
足の血管が浮き出して目立つ
夕方にかけてむくみが目立つ
こむら返りの頻度は減少する傾向にある
中期になると、血液の逆流や滞留がさらに進み、静脈が拡張・蛇行するため、皮膚表面に血管の浮き出しがはっきり見えるようになります。
むくみも徐々に悪化していきますが、慢性的なうっ滞状態に体がある程度「慣れ」てしまうため、初期に頻発していたこむら返りの回数は減少することがよくあります。
■ 重症
皮膚が茶色〜黒色に変色する色素沈着
足の皮膚に湿疹やかゆみが現れる
さらに進行すると皮膚潰瘍(皮膚に穴が開く状態)が形成される
重症になると、静脈うっ滞による慢性的な血流障害が皮膚にまで影響を及ぼし、色素沈着、うっ滞性皮膚炎、さらにはうっ滞性潰瘍といった深刻な皮膚障害を引き起こすようになります。
早期診断には超音波検査が有効
超音波検査(ドップラー検査)を行うことで、皮膚の表面からは見えない静脈の血流状態をリアルタイムで詳細に観察することができます。この検査では、
- どの静脈に血液の逆流が起きているか
- 逆流がどの範囲に及び、どの程度重症化しているか
- 現時点での状態からみた今後の進行リスク
また、単に逆流の有無を調べるだけでなく、血液の流れる速度や逆流の持続時間も測定できるため、より客観的に病態を把握することができます。
これらの情報をもとに、 「すぐに治療が必要なケースなのか」 「まずは経過観察をしながら生活指導で様子を見るべきか」 「どの治療法が最も適しているか」 といった最適な治療方針を立てることができます。
下肢静脈瘤の治療は、見た目だけで判断するのではなく、必ず超音波検査による血流の可視化と正確な診断が必要不可欠です。
