
【医師監修】下肢静脈瘤と飛行機移動:長時間フライト時のリスクと安全対策
この記事は、下肢静脈瘤専門クリニック目黒外科 院長・齋藤 陽医師が監修しています。長時間フライトが下肢静脈瘤に与える影響とは?
長時間のフライトは、下肢静脈瘤をお持ちの方にとって大きなリスク要因です。狭い座席に座り続けることで血流が滞りやすくなり、静脈瘤の悪化や血栓症のリスクが高まります。特に注意が必要なのが、深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)や血栓性静脈炎です。これらは足の痛み・腫れ・発赤といった症状を引き起こす可能性があり、重篤なケースでは命に関わることもあります。
飛行機内での5つの静脈瘤対策
1. 定期的に足を動かす
座席に座っている間も、足首をゆっくり回したり、かかとやつま先を交互に上下させる運動を数分おきに繰り返すことで、ふくらはぎの筋肉ポンプが働き、血流の滞りを防ぐことができます。これらの運動は狭い機内でも手軽にでき、静脈瘤の悪化や血栓の予防に効果的です。さらに、1〜2時間に一度は通路を歩くようにし、可能であれば軽いストレッチも取り入れることで、下肢全体の血流をより効果的に促進できます。
2. 水分をしっかり摂る
機内は湿度が非常に低く、一般的に20%以下になることもあるため、体内の水分が知らず知らずのうちに失われやすい環境です。とくに長時間のフライトでは、汗をかいていなくても呼吸や皮膚から水分が蒸発し、体は脱水状態に陥りやすくなります。脱水が進行すると、血液の粘度が高まり、血流が悪化して血栓ができやすくなるリスクが高まります。これを防ぐためにも、フライト中はこまめな水分補給が重要です。水は一度に大量に飲むのではなく、30分〜1時間ごとに少量ずつ摂るのが理想的です。また、アルコールやカフェインを含む飲み物は利尿作用があり、かえって脱水を進めてしまうため、できるだけ控えましょう。
3. ゆったりとした服装を選ぶ
締めつけの強い服装は、身体を圧迫して血流を妨げる原因になります。特にウエストや太もも、ふくらはぎ周辺を締めつけるようなパンツやストッキング、ベルト、きつめの靴下などは、下肢の静脈の流れを悪くし、むくみや血栓形成のリスクを高めるおそれがあります。フライト中は、ゆったりとした素材で伸縮性のある服や、締めつけの少ないラウンジウェア、ローヒールやスリッポンタイプの靴を選ぶと安心です。靴についても、長時間の着用で足がむくむことを考慮し、余裕のあるサイズ感のものを履くようにしましょう。
4. 弾性ストッキング(着圧ソックス)の活用
弾性ストッキング(着圧ソックス)は、足首からふくらはぎにかけて段階的に圧力をかけることで、下肢の静脈内の血流を促進し、うっ血を防ぐ医療用アイテムです。これにより、下肢静脈瘤の進行を抑えるだけでなく、飛行機など長時間の移動中に起こりやすい血栓(エコノミークラス症候群)の予防にも非常に効果的です。
市販されている弾性ストッキングには、旅行者向けの軽度圧迫タイプ(10〜20mmHg程度)から、医療機関で処方される中〜高圧タイプ(20〜40mmHg以上)まで、さまざまな種類があります。着用時の圧迫感や使用目的、足のむくみ・血管の状態によって適した圧力が異なるため、ご自身で判断せず、できるだけ医師の診察を受けて適切な製品を選ぶことが重要です。
また、サイズが合っていないと効果が弱まるだけでなく、逆に血行を妨げてしまうこともあるため、長さ(ハイソックス・ストッキングタイプ)やつま先の形(あり/なし)も含めて、自分に合ったものを選びましょう。

着用のタイミング
弾性ストッキングは、飛行機に搭乗してから着用するのではなく、できるだけ早い段階――空港に到着した時点、もしくは自宅を出る前から着用しておくのが理想的です。これは、地上での移動や搭乗手続き中にもすでに足の血流は滞り始めており、長時間の立位や座位による静脈のうっ滞が始まっている可能性があるためです。特に混雑したチェックインや搭乗待ちの時間を長く過ごす場合は、早期の着用によってより効果的に血栓の予防ができます。
また、出発前に落ち着いた環境で正しく着用することで、フィット感やずれなども確認しやすくなります。旅行の直前に急いで着けるよりも、余裕を持って準備しておくことが安心・安全なフライトにつながります。
5. 到着後のケアも忘れずに
目的地に到着した後は、できるだけ早めに体を動かし、下肢の血流を再活性化させることが大切です。長時間座っていたことで滞っていた血液を循環させるために、まずは空港内をゆっくり歩いたり、軽いストレッチを行ったりすることをおすすめします。ふくらはぎの筋肉をしっかり動かすことで、血液を心臓に戻す「筋ポンプ作用」が働き、むくみや血栓の予防につながります。
また、足のむくみやだるさを感じる場合は、ホテルや滞在先で足を心臓より高い位置に上げて休むと効果的です。ベッドやソファに横になり、クッションや丸めたタオルを足の下に敷くことで、重力の助けを借りて血液の戻りを促すことができます。場合によっては、軽くマッサージをしたり、再度弾性ストッキングを着用するのも良い方法です。

患者さんの声:不安から安心へ
70代・女性 「ヨーロッパ旅行を控えていて不安でしたが、目黒外科で相談して弾性ストッキングを処方してもらいました。飛行機の中では脚が重くならず、むくみもなく、快適に旅行を楽しめました」
よくあるご質問(FAQ)
Q1. 短距離の国内線でも弾性ストッキングは必要ですか?
A. 1〜2時間のフライトでも静脈瘤のある方には着用をおすすめします。特に過去に血栓症の既往がある方は注意が必要です。Q2. ストッキングはどの程度の圧迫力が良いのでしょうか?
A. 一般的に20〜30mmHg程度が推奨されますが、症状によって異なるため、医師の診断を受けて選ぶのが安全です。Q3. 機内で足が痛くなったらどうすればいいですか?
A. 強い痛みや腫れが出た場合は、到着後速やかに医療機関を受診してください。まとめ
下肢静脈瘤のある方にとって、長時間の飛行機移動はリスクを伴いますが、正しい対策をとることで安心して旅行を楽しむことが可能です。弾性ストッキングの着用、こまめな足の運動、水分補給を意識して、快適で安全なフライトをお過ごしください。下肢静脈瘤や弾性ストッキングに関するご相談は、目黒外科までお気軽にどうぞ。
