専門医が解説|下肢静脈瘤を治療しないでそのままにしておくとどうなる?

下肢静脈瘤とは

下肢静脈瘤は、足の静脈の弁の機能不全により血液がうまく心臓に戻らず、静脈内に血液が滞留して静脈が膨らんでしまう病気です。見た目の問題だけでなく不快な症状が出現し、様々な悪影響を及ぼす可能性があります。

今回は、下肢静脈瘤を放置した場合に起こり得るリスクと、下肢静脈瘤の進行度について解説します。

下肢静脈瘤を放置するリスク

下肢静脈瘤を治療せずに放置すると、次のような健康上のリスクが高まります。

1. 皮膚変化: 静脈内の圧力が高まると、皮膚に栄養が行き渡らなくなり、皮膚が硬くなったり、色素沈着・湿疹・かゆみを引き起こしたりします。
2. 慢性的な痛みや重さ: 足の疲労感、重さ、痛みが増し、日常生活に支障をきたすことがあります。
3. 足のむくみ: 足の静脈の血液循環が悪くなると、むくみやすくなります。
4. 血栓性静脈炎: 静脈瘤内で澱んだ血液が固まり、血栓が形成されることがあります。すると静脈瘤の中で炎症が起こり、痛みや赤みが出ることがあります。
5. 潰瘍形成: 最も進行した状態で、皮膚の傷から潰瘍が形成されることがあります。

下肢静脈瘤の進行度(CEAP分類)について

下肢静脈瘤の進行度を評価するために用いられるのがCEAP分類です。これは、臨床症状(C)、病因(Etiology, E)、解剖学的分布(Anatomic, A)、病理生理学的問題(Pathophysiology, P)の4つのカテゴリーに基づいています。ここでは特に臨床症状に焦点を当てて説明します。

– C1: クモの巣状静脈瘤や網目状静脈瘤
この状態では基本的に自覚症状はありませんが、皮膚がチクチクしたりピリピリとした痛みを感じるという方や、灼熱感を訴える方が時々いらっしゃいます。

クモの巣状静脈瘤と網目状静脈瘤がボコボコした静脈瘤になるのではないかと心配される方が非常に多いのですが、クモの巣状静脈瘤と網目状静脈瘤は巨大化しませんのでご安心ください。

 
– C2: 立った状態で3mm以上の静脈瘤
C2は立った状態で太さが3mm以上の静脈瘤が見られます。この状態の方は、無症状の人から明け方や起床時のこむら返り・足のだるさ・足の痛みを自覚する人まで症状に幅があります。

見た目が気になるので改善したい、あるいは不快な症状があるので改善したい、という方は治療を検討されると良いでしょう。治療法は弾性ストッキングの着用か手術です。

見た目はあまり気にならない方や、自覚症状も特に困っていないという方は経過観察で構いません。ただし、下肢静脈瘤は自然に治ることはありませんので、徐々に進行することは知っておく必要があります。

– C3: 足のむくみ
朝は足がすっきりしていますが、夕方から夜にかけてむくみがひどくなるのが特徴です。C2の方と同様にむくみが気になる方は治療を検討しましょう。治療法は弾性ストッキングの着用か手術です。

– C4: うっ滞性皮膚炎
皮膚の変化がおこり、色素沈着・湿疹・かゆみ・皮膚硬化が見られます。このような状態をうっ滞性皮膚炎と呼び、下肢静脈瘤が重症になってきたサインです。うっ滞性皮膚炎は皮膚潰瘍に移行するリスクが高い状態ですので、なるべく早いタイミングで手術を受けることをお勧めします。

– C5: 皮膚潰瘍の治癒後

過去に皮膚が潰瘍になったことのある方も、静脈瘤が未治療だと再び皮膚潰瘍になってしまう危険性がありますので、できるだけ早めの手術をお勧めします。

– C6: 皮膚潰瘍

皮膚がえぐれて潰瘍になってしまうと、お薬を塗って傷の処置をしていてもなかなか治りません。できるだけ早く手術を受けることをお勧めします。

 

まとめ

下肢静脈瘤は見た目の問題だけでなく、放置することで不快な症状や厄介な皮膚トラブルを招く可能性があります。早期の段階であれば、生活習慣の改善や弾性ストッキングなどの比較的簡単な方法で症状の進行を遅らせることが可能です。しかし、進行した状態では手術が必要になることがあります。下肢静脈瘤の治療を受けるかどうかは、病気の進行度に基づいて医師と相談することが大切です。自分の状態を正確に把握することで、適切な治療法を選択し、健康的な生活を送るための一歩を踏み出しましょう。