
膝裏にクネクネした血管…それは下肢静脈瘤かもしれません|原因・症状・治療法を医師が解説
「膝の裏にクネクネと浮き出た血管がある」「見た目が気になるけど、痛みもないし大丈夫かな…」そんなお悩みはありませんか?実はそれ、下肢静脈瘤という血管の病気の初期サインかもしれません。放置すると足のだるさや皮膚の変色、重症化すれば皮膚潰瘍を起こすこともあるため、早期の対応が大切です。
下肢静脈瘤とは?
下肢静脈瘤とは、足の表在静脈に存在する逆流防止弁(静脈弁)が何らかの原因で壊れたり、機能しなくなることで、血液が本来の方向とは逆に下へと逆流し、足に溜まってしまう状態を指します。本来、心臓から送り出された血液は動脈を通って全身に届けられ、使い終えた血液は静脈を通って心臓へ戻ります。しかし、足は身体の最も下にあるため、重力に逆らって血液を押し上げる必要があり、そのための仕組みとして静脈内には一方向にしか開かない“弁”が一定間隔で備わっています。

ところが、加齢や長時間の立ち仕事、妊娠・出産、遺伝的体質などが原因でこの弁が壊れると、血液が下向きに逆流し、足の静脈内で滞ってしまいます。
その結果、静脈に余分な圧がかかり、血管壁が拡張・蛇行して、皮膚の表面に“こぶ”や“クネクネと浮き出た血管”として現れるようになるのです。これが、下肢静脈瘤の典型的な見た目の特徴です。
この血流の異常により、静脈がこぶのように膨らみ、皮膚の上からクネクネとした血管が浮き出て見えるのが特徴です。
なぜ膝裏にできやすいのか?
膝の裏側(膝窩部)は、下肢の静脈が合流しながら心臓に向かって流れ始める重要な場所であり、重力の影響を強く受ける部位のひとつです。特に立ちっぱなしや座りっぱなしの時間が長い人は、血液がこの膝裏の静脈に滞留しやすくなります。また、加齢とともに静脈弁の弾力や閉鎖機能が低下すると、本来なら逆流を防いでくれるはずの弁がしっかり閉じなくなり、血液が下方向に漏れてしまいます。

さらに、妊娠中は胎児の成長により腹部の静脈が圧迫されるほか、女性ホルモンの影響で血管が拡張しやすくなるため、静脈弁に負担がかかりやすくなります。これにより、特に妊娠・出産経験のある女性では膝裏の静脈瘤が出現しやすい傾向があります。
遺伝的な要素も大きく、親や兄弟に下肢静脈瘤を患った人がいる場合、同じく膝裏などの特定部位に静脈瘤が現れる可能性が高まります。
主な原因
- 長時間の立ち仕事(販売・調理・看護など): 一日中立ちっぱなしの姿勢が続くと、足の筋肉がポンプのように働く回数が減り、静脈の血流が滞りやすくなります。さらに重力の影響で、足元に血液が溜まりやすくなり、静脈弁に強い負担がかかることで弁の機能が低下し、下肢静脈瘤の原因となります。
- 妊娠・出産による腹圧上昇とホルモン変化: 妊娠中は胎児の成長によって子宮が拡大し、骨盤内の大静脈や下肢の静脈が物理的に圧迫されるため、血液が足に滞りやすくなります。さらに、女性ホルモンの分泌が増えると、血管壁が柔らかくなり拡張しやすくなるため、静脈瘤を発症しやすくなります。
- 親や兄弟に静脈瘤のある遺伝的体質: 静脈瘤には遺伝的な要因が強く関係していることが明らかになっており、親が静脈瘤を持っている場合、子どもも同様に静脈弁が弱い体質や血管の構造的な脆弱性を受け継いでいる可能性があります。特に女性では、母親が静脈瘤持ちの場合、発症率が高まる傾向があります。
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下肢静脈瘤の症状
- 膝裏やふくらはぎにクネクネと浮き出る血管: 静脈弁が壊れて血液が逆流・滞留すると、血管内圧が上昇して静脈が拡張・蛇行し、皮膚の表面に“クネクネと浮き出た”血管として現れます。特に皮膚の薄い膝裏やふくらはぎは目立ちやすく、鏡で見て気づくことも多い部位です。
- 夕方になると強く感じる足のだるさ・重さ: 静脈瘤によって血流が滞ると、老廃物を含んだ血液が下肢にたまりやすくなり、特に活動後の夕方になると足のだるさ・重たさを強く感じるようになります。立ち仕事や外出後に「足がパンパンに張る」と感じる方は要注意です。
- こむら返り(足のつり)が夜間や就寝中に起きやすい: 血流が悪くなることで筋肉への酸素や電解質の供給が不足し、筋肉が過敏に反応してしまいます。その結果、ふくらはぎに突然の激しい収縮(けいれん)が起きるのが“こむら返り”です。特に睡眠中に多く、睡眠の質を下げる原因にもなります。
- 皮膚が茶色く変色してきたり、湿疹やかゆみが出る: 慢性的な血流障害によって、血液中の鉄分(ヘモジデリン)が皮膚に沈着することで、すねや足首まわりの皮膚が茶褐色に変色することがあります。また、血液がうっ滞することで皮膚の栄養状態が悪化し、湿疹・かゆみ・赤みといったうっ滞性皮膚炎に進行することもあります。
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進行するとどうなる?
静脈瘤は、見た目の問題だけと思われがちですが、それは大きな誤解です。 進行性の病気であり、静脈の血流が長期間滞留すると、足の皮膚に慢性的な栄養障害が起こります。その結果、皮膚が乾燥しやすくなり、かゆみ・赤み・湿疹といったうっ滞性皮膚炎を引き起こすことがあります。
さらに悪化すると、皮膚のバリア機能が崩れ、小さな傷でも治りにくくなり、じくじくとした潰瘍(皮膚のただれ)へと進展するリスクが高まります。
このような静脈うっ滞性潰瘍は、慢性化しやすく、生活の質(QOL)を著しく低下させる原因となります。
症状が軽いうちに対処すれば、比較的負担の少ない治療で改善が期待できます。「見た目だけの問題だから」と放置せず、早めの診断と適切な治療が大切です。
膝裏の血管が気になる方へ
膝の裏の血管がふくらんで見える、足がだるく重い、夕方になると靴下の跡がくっきり残る――こうした症状は、初期の下肢静脈瘤や血流の滞りによる静脈うっ滞のサインである可能性があります。
「少し疲れているだけかな」「年齢のせいかも」と見過ごされがちですが、実は静脈弁の機能が低下し、血液が逆流して足に溜まっている状態かもしれません。
放置しておくと、見た目の悪化だけでなく、皮膚炎や潰瘍といった深刻な合併症につながることもあります。
このような兆候がある方は、皮膚科ではなく、血管外科や下肢静脈瘤を専門とする医療機関の受診をおすすめします。
症状が軽いうちに正しく診断・治療することで、手術を避けられる場合や、より低侵襲な治療で済む可能性が高くなります。