下肢静脈瘤とは
足の静脈が瘤(こぶ)の様に膨らんだ状態を静脈瘤(じょうみゃくりゅう)といいます。
下肢静脈瘤が発生するメカニズム
血液の流れは心臓から始まります。
心臓から押し出されて動脈を流れる血液は、栄養や酸素をたっぷり含んでおり、鮮やかな赤い色をしています。
反対に、足から出たゴミ(老廃物といいます)は静脈を通って心臓に戻るので、どす黒い色をしています。
例えるなら、動脈が上水道で、静脈は下水道の役割をしています。
静脈は、心臓に血液を戻すため、地球の重力に逆らって流れていきます。そのため、2つの仕組みがあります。
その1:筋肉のポンプ作用。
足の筋肉が収縮すると、静脈を強力にモミモミして血液を心臓の方向へ押し上げてくれます。
ちょうど、マヨネーズや歯磨き粉のチューブを押すと中身が出てくるようなイメージです。
「足は第二の心臓」と言われるのはこのためで、特にふくらはぎの筋肉が大切な役目を果たします。
その2:静脈の逆流防止弁
静脈には数センチおきに血液の逆流を防止する弁があり、いったん上に流れた血液が下に落ちないようにしています。
長時間の立ち仕事により足の筋肉が使われないと、足の筋肉のポンプ機能が働きません。
妊娠出産、遺伝などにより静脈の逆流防止弁が機能しなくなると血液が下に落ちていき、血液の渋滞(医学用語で「うっ滞」と言います)が起こります。
下肢静脈瘤の原因
血液が重力により落下しないようにするための静脈弁ですが、さまざまな理由によって、弁が正常に閉じなくなることがあります。
主な原因には次のようなものが挙げられますので、ぜひ参考にしてください。
- 立ち仕事(デスクワーク)
- 妊娠・出産
- 遺伝
- 加齢
- 肥満
- 便秘
- 性別
1.立ち仕事(デスクワーク)
調理師・美容師・警備員・クリーニング店など、歩き回らず同じ場所に長時間立ちっぱなしのお仕事をされている方は、足の筋肉によるポンプ作用が働きません。そのため足の静脈に血液がたまりやすくなり、弁に負担がかかって閉じなくなってしまうのです。
特に10時間以上立ち続ける方は下肢静脈瘤が重症化しやすいと言われています。
立ち仕事をしていなくても、長時間デスクワークをされる方も足の筋肉のポンプ作用が働きません。そのため、立ち仕事の方ほどではないものの、静脈弁に負担がかかることになります。
2.妊娠・出産
出産を経験した女性の2人に1人は静脈瘤を発症するというデータがあります。
その原因として考えられているのが、以下の3つです。
a.母体の血液量の増加
妊娠中は、赤ちゃんを育てなくてはなりませんので、お母さんの体の中を流れる血液の量が30~50%増加するといわれています。そのため、全身の静脈はパンパンの状態となり、特に重力の影響を受けやすい足の静脈は太くなってしまうことがあるでしょう。
b.女性ホルモンの影響
妊娠中は女性ホルモンのひとつであるプロゲステロンの量がおよそ数十倍に増加します。プロゲステロンは血管の拡張作用があるため、妊娠後期になるほど静脈は拡張しやすくなります。
c.子宮による静脈の圧迫
妊娠週数が進み、胎児が大きくなると、大きくなった子宮が骨盤の中で静脈を圧迫します。すると足から流れてきた血液は通りにくいため、砂時計のように渋滞して静脈が太くなりがちです。
パンパンに伸ばされていた静脈も、出産後ある程度は元に戻りますが、伸び切ったゴムのように太くなった静脈が元に戻らず、そのまま静脈瘤ができてしまう方もいらっしゃいます。一般的には2人目の妊娠から静脈瘤が目立つようになることが多いです。
3.遺伝
両親が下肢静脈瘤をお持ちの場合、お子さんに遺伝する確率は90%といわれています。
どちらかの親が下肢静脈瘤をお持ちの方は、遺伝する確率は男の子25%、女の子60%というデータがありますので、注意したいポイントです。
4.加齢
年齢とともに静脈の壁を構成する弾性膜の萎縮と平滑筋の退行がおこり、静脈の壁は徐々に弱くなっていきます。そのため長時間立ちっぱなしで足の静脈に血液が溜まると静脈が伸びやすくなります。
5.肥満
あまり強い要因ではありませんが、高度の肥満女性は静脈瘤になりやすいというデータがあります。
6.便秘
排便のときにいきむと腹圧がかかります。高い腹圧がかかると、おなかの中で静脈を強く圧迫するため静脈弁に必要以上の負担がかかります。
7.性別
女性は女性ホルモンのプロゲステロンが月経周期に合わせて増加します。このプロゲステロンは静脈壁と静脈弁を伸びやすくさせるため、女性のほうが静脈瘤になりやすいのです。
また、女性の方が足の筋力や筋肉量が男性と比べると少さいため、血液が足の静脈内で滞りやすい事も原因の一つです。
静脈弁が閉じなくなると何が起こるか
静脈弁がちゃんと閉じないと、血液が重力によって下に逆戻りしてしまいます。
静脈は下から上に一方通行で流れる血管です。静脈の血液が逆流するということは、一方通行の道路で車が逆走してくるのと同じです。
その場面を想像してみてください。車は動けなくなりますよね。つまり、血液が交通渋滞をおこしてしまうのです。
静脈内で血液が渋滞すると、静脈は徐々に太くなっていきます。そして、静脈が太くなると弁が引き伸ばされて、余計に閉じなくなります。すると血液の逆流がさらに増え、血液の渋滞がさらに悪化する、という悪循環に陥ってしまうのです。
この状況では血液が心臓に戻ることが難しくなります。しかし、血液は心臓に戻りたい。ではどうするか?
正常な静脈に血液を迂回させるように新しい血管を作り出します。つまり、渋滞の抜け道のような役割をする新しい血管です。
これが静脈瘤です。
①一方通行の道路を反対側から車が逆走してきて、車同士はお互いにどちらにも動けなくなり渋滞します。
②隣を走る道路が車がスイスイ走っています。
③渋滞中の道路から空いている道路に向かって迂回路が作られて渋滞が解消されました。
この迂回路に相当するのが静脈瘤なのです。
下肢静脈瘤の症状
静脈の逆流防止弁が働かなくなると、血液が逆流してきます。
下水道が逆流するのと同じなので、足に血液のゴミ(老廃物)が溜まります。
血液中の水分も足に溜まるので、足がむくみます。
老廃物で汚れた血液が足にたまると、だるさや足の痛み、むずむず感などの症状が起こります。
これらの症状は、長時間立っていたあとや、夕方以降などにおこります。
夜、寝ているときにおこる「こむら返り(足がつること)」も下肢静脈瘤の症状です。
足に血液がたまるので、静脈が太くなり、しだいにクネクネと曲がってきます。
また、皮膚の血液循環が悪くなるため、足のかゆみ、湿疹や色素沈着などの皮膚炎をおこす事があります。
皮膚炎があらに悪化すると皮膚が硬くなり(皮膚硬化)、最悪の場合、皮膚潰瘍ができたり、出血することがあります。
弁が故障しやすい静脈がある
静脈弁が故障しやすい静脈は、体の表面を走る「表在静脈」と呼ばれる静脈です。
表在静脈には、くるぶし~すね~太ももの内側を走る大伏在静脈と、ふくらはぎを走る小伏在静脈の2本の静脈があります。
この2本の静脈は弁がダメになりやすいのです。
足の中心部の深いところを走るのが「深部静脈」です。深部静脈は周りを筋肉に囲まれており、常に筋肉によって四方から圧迫されています。周りを頑丈な鎧で覆われているようなものなので、深部静脈は血液が滞りにくく、静脈も拡張しにくいのです。
したがって、深部静脈の弁は、滅多なことでは故障しません(深部静脈は、血栓症が起こらない限り、弁の逆流は起こすことはありません)。
深部静脈と反対に、表在静脈は内側には固い筋肉がありますが、外側は皮下脂肪や皮膚など軟らかい組織となっています。そのため、静脈弁が閉じなくなり血液の逆流が起きると表在静脈は太くなってしまうのです。
静脈瘤は「原因」ではなく、「結果」としてできたもの
逆流を防ぐ弁が閉じなくなった表在静脈に血液が流れても、重力により逆戻りしてしまいます。つまり血液を正常に流すためには、逆流しない静脈に合流しなければなりません。
それには逆流する表在静脈から逆流していない他の表在静脈または深部静脈に合流できる「渋滞の抜け道」が必要です。
つまり、ボコボコと浮き出た静脈瘤は、逆流している静脈から、逆流していない静脈へのバイパス道路を作ることで解決します。
本当の黒幕は表には出てこない
このように、下肢静脈瘤は表在静脈の弁逆流によって血液が渋滞した結果、仕方なく体の表面に現れてくるものとなっています。
下肢静脈瘤は見た目が悪いため、それ自体が何か悪い病気のように思ってしまいがちです。しかし、これは結果としてできたものになります。静脈瘤ができる原因は、その上流にある表在静脈の弁の故障によって起こる血液の逆流なのです。
静脈弁の故障による血液の逆流は、体の外見からは見ることができません。つまり、本当の黒幕は決して表には出てこないのです。
ボコボコと浮き出た静脈瘤の存在により、血液の逆流の存在を推測することはできますが、血液の逆流は超音波検査(エコー検査)を行わないと確認することができません。
したがって、足の血管が浮き出ている方は、自覚症状の有無にかかわらず、一度超音波検査を受けてみてください。
下肢静脈瘤の治療方法
圧迫療法
軽度の静脈瘤では、保存的治療(手術をしない治療)が選ばれることもあります。
代表的なのが弾性ストッキングによる圧迫療法です。着圧ソックスとも呼ばれます。医療用のストッキングで、足に適度な圧力をかけることで、血液の逆流を抑え、血流を改善します。
弾性ストッキングにはハイソックスタイプをはじめ、いくつかのタイプがあります。血流改善において最も大切なポイントはふくらはぎが圧迫されることです。その点で、履きやすさ・価格などを総合的に考慮すると、ハイソックスタイプが基本となります。
弾性ストッキングは手軽に始められる治療法で、だるさ・こむら返り・足のむずむず感・むくみなどの症状を速やかに改善させることができます。
ただし、圧迫療法は下肢静脈瘤を根本的に治す方法ではありません。ボコボコに浮き出た静脈瘤がなくなることはありませんし、弾性ストッキングを脱いでしまうと症状が再び出現してしまいます。
硬化療法
硬化療法は、主に足の毛細血管が目立つ「クモの巣状静脈」や「網目状静脈」に対して行われる治療法です。
専用の薬剤(硬化剤)を静脈瘤に注射し、血管の内側に炎症を起こして閉塞させる方法です。時間が経つとその血管は自然に吸収され、目立たなくなっていきます。注射だけで済み、健康保険が適用されます。
施術後は、弾性ストッキングによる圧迫が重要となります。これは、薬剤を注入した血管がきちんと閉じるようにする事と静脈血栓を予防するためです。
副作用として、一時的な皮膚の色素沈着や硬結(しこり)、軽い痛みを感じることがありますが、多くは自然に改善します。
また、硬化療法だけでは治療が難しい太い静脈瘤には、レーザーや高周波治療と組み合わせることもあります。
血管内焼灼術(カテーテル治療)
進行した下肢静脈瘤には、根本治療として手術が必要です。最近では、体に負担の少ない日帰り手術が主流です。
カテーテルという細い管を静脈に挿入し、レーザーや高周波の熱で血管を内側から閉じる治療法です。
麻酔は痛み止めの局所麻酔と眠くなる静脈麻酔を併用するため、痛みも不安も少なく済みます。
手術時間は、静脈瘤の程度や大きさなどによりますが、片足あたり30分から1時間が目安です。
【治療後の経過と注意点】
手術当日は入浴や運転を避けますが、翌日から普段どおりの生活が可能です。
痛みや腫れが出る場合もありますが、多くは軽度で自然に落ち着きます。
術後のむくみや腫れ・静脈血栓を防ぐために、術後もしばらくは弾性ストッキングを使用することが推奨されます。
また、色素沈着や皮膚炎などがある場合は、術後も定期的な経過観察が重要です。
血管内塞栓術(グルー治療)
レーザーの代わりに医療用接着剤で血管を閉じる方法です。
皮膚を切らずに治療できるため、傷跡が目立たず、治療後すぐに歩いて帰宅できます。
レーザーや高周波カテーテルによる血管内焼灼術では、術後に弾性ストッキングを着用する必要があります。しかし、グルー治療後は必ずしも弾性ストッキングを着用する必要がありません。したがって、グルー治療は弾性ストッキングを着用することが難しいご高齢の患者さんなどにおすすめです。
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ストリッピング手術
ストリッピング手術は特殊なワイヤーで静脈を引き抜く治療法です。長きにわたって下肢静脈瘤の標準的な手術方法でしたが、現在世界での下肢静脈瘤手術は血管内焼灼術(カテーテル治療)が主流となっており、ストリッピング手術はあまり行われなくなりました。
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