下肢静脈瘤とは?原因・症状・治療法を写真つきで解説 目次 下肢静脈瘤とは 発生するメカニズム 下肢静脈瘤の原因 下肢静脈瘤の症状 弁が故障しやすい静脈 静脈瘤は「結果」としてできる 本当の黒幕は表に出てこない 下肢静脈瘤の治療方法 ご予約・お問い合わせ 下肢静脈瘤とは 足の静脈が皮膚の表面で瘤(こぶ)のように膨らんだ状態を「静脈瘤(じょうみゃくりゅう)」といいます。これは、血液を心臓へ押し戻す静脈内の弁がうまく機能しなくなることで、血液が逆流してしまい、足の静脈に血液が滞ることによって引き起こされます。 多くの場合、ふくらはぎや太ももにボコボコとした血管が浮き出る形で見られ、見た目の変化だけでなく、足のだるさ・むくみ・こむら返りなどの症状を伴うことがあります。 初期段階では見過ごされがちですが、放置すると進行して皮膚炎や潰瘍につながることもあるため、早期の対処が大切です。 下肢静脈瘤が発生するメカニズム 血液の流れは心臓から始まります。心臓がポンプのように収縮することで、血液は動脈を通って全身に送り出されます。この動脈血には、体の細胞にとって必要不可欠な酸素や栄養がたっぷり含まれており、色は鮮やかな赤色をしています。 体の各部に栄養を届けた後の血液は、不要になった老廃物や二酸化炭素を回収しながら静脈を通って再び心臓へと戻ってきます。この静脈血は、酸素が少なく老廃物を多く含んでいるため、どす黒い色をしています。 たとえるなら、動脈は清潔な水を届ける「上水道」、静脈は使い終えた水を回収する「下水道」のような役割を担っています。両者がバランスよく機能してはじめて、体内の循環が正常に保たれるのです。 特に足の静脈は、心臓よりも低い位置にあるため、血液を重力に逆らって心臓に押し戻さなければなりません。このため、足の静脈には次のような2つの重要な仕組みが備わっています。 その1:足の筋肉のポンプ作用。 足の筋肉が収縮すると、その周囲を走る静脈が圧迫され、血液が心臓の方向へ押し上げられます。これは「筋ポンプ作用」と呼ばれ、特に下半身の血液循環において非常に重要な働きを担っています。 イメージとしては、マヨネーズや歯磨き粉のチューブを下からギュッと絞ると、中身が上へ押し出されるのとよく似ています。 このポンプ機能があることで、足先から心臓まで長い距離を、重力に逆らって血液を戻すことが可能になります。 中でも「ふくらはぎの筋肉」は、血液を送り出す力が強いため、「第二の心臓」とも呼ばれています。歩く、立つ、階段を昇るといった日常の動作が、この筋ポンプ作用を活性化させる運動となるのです。 逆に、長時間立ちっぱなしや座りっぱなしの状態が続くと、このポンプ機能が十分に働かず、足に血液がたまりやすくなります。 その結果、静脈にかかる圧力が増し、静脈瘤の発症リスクが高まるのです。 その2:静脈の逆流防止弁 静脈には、数センチおきに「逆流防止弁(静脈弁)」と呼ばれる仕組みが備わっており、血液が心臓に向かって一方向に流れるようコントロールしています。この弁がしっかり閉じることで、いったん上へと押し上げられた血液が重力によって下に戻ってしまうのを防いでいます。 しかし、長時間にわたって立ちっぱなしや座りっぱなしの状態が続くと、足の筋肉が動かず、筋ポンプの働きが弱くなります。ポンプ作用が機能しない状態では、血液がスムーズに心臓へ戻れず、下肢にとどまりやすくなります。 さらに、妊娠・出産によるホルモンバランスの変化や、遺伝的な体質によって静脈弁がゆるみやすい方もいます。このような要因で弁の機能が低下すると、せっかく上に流れた血液が再び足側に落ちてしまうのです。 結果として、血液が静脈内にとどまり「渋滞」を起こすようになります。この状態は、医学的には「うっ滞(静脈うっ滞)」と呼ばれ、静脈の内圧が高まり、静脈が徐々に拡張してボコボコと盛り上がってくる原因になります。静脈瘤の発症は、まさにこの血液の逆流とうっ滞が慢性的に続いた結果なのです。 下肢静脈瘤の原因 静脈弁は、重力に逆らって血液を心臓へ戻すための重要な構造です。しかし、この弁が正常に機能しなくなると、血液が逆流して足に滞り、静脈瘤の原因となります。弁の故障には加齢や生活習慣、体質など、さまざまな要因が関与しています。 特に以下のような条件に該当する方は、静脈弁への負担が増し、下肢静脈瘤を発症しやすくなるとされています。 立ち仕事・デスクワーク:長時間足を動かさないことで、筋ポンプが働かず血液が滞留しやすくなります。 妊娠・出産:血液量の増加やホルモンの変化、子宮による血管圧迫などが静脈に負担をかけます。 遺伝:静脈の壁や弁の強さには体質が関与しており、家族に静脈瘤があると発症しやすくなります。 加齢:加齢とともに静脈弁が弱くなり、閉じる力が低下して逆流が起こりやすくなります。 肥満:体重増加により下肢の静脈にかかる圧力が上がり、弁に余計な負担がかかります。 便秘:排便時のいきみによって腹圧が高まり、静脈を圧迫して血流が妨げられます。 性別(女性):女性ホルモン(特にプロゲステロン)の影響で血管が拡張しやすく、静脈瘤の発症リスクが高くなります。 これらのリスクに心当たりがある方は、日頃から足を意識的に動かしたり、早めに医師に相談することで、静脈瘤の予防や進行の抑制につながります。 1.立ち仕事(デスクワーク) 調理師、美容師、警備員、クリーニング店のスタッフなど、あまり歩き回ることなく同じ場所に長時間立ちっぱなしで作業する職種の方は、足の筋肉を十分に使う機会が少なくなります。その結果、ふくらはぎの筋肉による「筋ポンプ作用」が働かなくなり、静脈内の血液がうまく心臓に戻れず、足に滞留しやすくなります。 血液が足にたまると静脈にかかる圧力が上昇し、血液の逆流を防いでいる静脈弁に負担がかかります。負荷が続くと弁が壊れ、血液が逆流しやすい状態に。これが繰り返されることで、血液のうっ滞が慢性化し、静脈が拡張して「こぶ」のように浮き出す下肢静脈瘤へとつながっていくのです。 とくに1日10時間以上、ほとんど足を動かさずに立ち続けるような方は、静脈瘤の発症リスクが高いだけでなく、放置した場合に重症化しやすいことが報告されています。初期には症状が出にくいため、自覚がないまま進行してしまうケースも少なくありません。 そのため、長時間立つ仕事をされている方は、業務中でも意識的に足を動かす工夫(つま先立ち運動や足首回しなど)や、帰宅後のストレッチ・着圧ソックスの活用など、早めの対策がとても大切です。 立ち仕事をしていない方でも、長時間座ったまま作業を続けるデスクワーク中心の生活は、実は下肢静脈瘤のリスク要因の一つです。座りっぱなしの姿勢では足の筋肉をほとんど動かさないため、「第二の心臓」とも呼ばれるふくらはぎのポンプ作用がほとんど機能しません。 本来、歩いたり足を動かすことで血液が静脈を通じて心臓に押し戻されますが、運動不足の状態が続くと血液が足元に滞りやすくなり、静脈内圧が上昇してしまいます。その結果、静脈弁にかかるストレスが徐々に蓄積し、やがて弁がゆるんで逆流が起こるようになります。 立ちっぱなしの仕事に比べればリスクはやや低いものの、長時間の座り作業が日常化している方も、静脈瘤を引き起こす「静脈うっ滞」の原因となりうるため注意が必要です。 特にテレワークや会議が続くビジネスパーソンのように、1日中座りっぱなしになることが多い方は、1時間に1度立ち上がって歩く、かかと上げ運動をする、足首を回すといった簡単な動きでも、血流改善に大きく役立ちます。 2.妊娠・出産 出産を経験した女性の約2人に1人が静脈瘤を発症すると言われており、妊娠・出産は下肢静脈瘤の大きなリスク因子とされています。これは単なる「体型の変化」や「疲労」だけではなく、妊娠中に体内で起こる複合的な生理変化が関係しています。 特に注目すべきは以下の3つの要因です。 a. 母体の血液量の増加 妊娠中、母体の血液量は通常時の約1.3〜1.5倍、つまり30〜50%も増加するとされています。これは胎児に十分な酸素と栄養を送るための自然な変化ですが、そのぶん全身の血管に大きな負担がかかります。とくに足の静脈は心臓から遠く、重力の影響を受けやすいため、血液が滞りやすく静脈が拡張しやすくなるのです。 b. 女性ホルモン(プロゲステロン)の影響 妊娠中は、女性ホルモンの一種であるプロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌量が数十倍にも増加します。プロゲステロンには血管の平滑筋をゆるめ、静脈壁を柔らかくする作用があるため、静脈が拡張しやすくなり、弁の閉じる力も弱くなってしまいます。これにより逆流防止弁の機能が低下し、血液のうっ滞が生じやすくなるのです。 c. 子宮による静脈の圧迫 妊娠が進むにつれて胎児の成長とともに子宮が大きくなり、骨盤内の静脈を圧迫するようになります。特に、下大静脈(足から心臓に戻る太い血管)や腸骨静脈が圧迫されると、足から心臓への血液の流れが妨げられ、下肢に血液が渋滞するようになります。これはまるで、砂時計のくびれ部分で交通が詰まってしまうような状態です。 妊娠中にこうした要因が重なることで、足の静脈は「パンパンに膨らんだ状態」となり、伸び切ったゴムのように出産後も元に戻らず静脈瘤として残ってしまうことがあります。特に、2人目以降の妊娠から静脈瘤が目立つようになる方が多いのも特徴です。これは1回目の妊娠で静脈がすでに伸ばされており、2回目以降で症状が表面化するためです。 このように、妊娠中の静脈瘤は単なる見た目の変化にとどまらず、血液循環の変化による生理的な現象であるため、異変に気づいた時点で早めに専門医に相談することが大切です。特に、妊娠前から下肢静脈瘤の家族歴がある方や、前回妊娠で症状が出た方は、早期の予防と管理が重要です。 3.遺伝 下肢静脈瘤は、生活習慣や年齢による変化だけでなく、遺伝的な体質が大きく関与する病気です。 とくに注目すべきは、両親ともに下肢静脈瘤をお持ちの場合、その子どもが静脈瘤を発症する確率は90%に達するというデータです。また、片親のみが静脈瘤を持つ場合でも、女の子には約62%、男の子には約25%の確率で遺伝するとされています。 これらの数字は、スウェーデンで実施された家族集積性に関する疫学研究によって明らかにされたもので、遺伝が静脈瘤の発症リスクに強く関与することが科学的に証明されています。 [出典]Gundersen J, Hauge M. Hereditary factors in venous insufficiency. Angiology. 20: 346-55, 1969 また、性別によるリスク差には女性ホルモンの影響が大きく関係しており、特にプロゲステロンの分泌が血管を拡張させやすくすること、さらに妊娠・出産によって下半身の静脈に負担がかかることも、女性の発症率を高める要因と考えられています。 そのため、静脈瘤の家族歴がある方は、自覚症状が出る前から日常生活での足のケアや予防意識を持つことが重要です。 立ちっぱなし・座りっぱなしを避ける、軽い運動やストレッチを取り入れる、そして違和感があれば早めに静脈エコー検査を受けることで、発症や進行を防ぐことができます。 4.加齢 年齢を重ねるにつれて、体のさまざまな組織が老化していくのと同様に、静脈の構造にも変化が起こります。 静脈の壁は、弾性膜や平滑筋(血管の柔軟性や収縮性を支える組織)によって構成されていますが、加齢によってこれらが徐々に萎縮(しぼむ)・退行(弱まる)していきます。 この変化により、静脈の壁は弾力を失って柔らかくなり、血液の圧力に対して耐えにくくなります。その結果、立っている時間が長くなると重力の影響で血液が足にたまり、弱くなった静脈が内側から押し広げられて徐々に拡張してしまいます。 さらに、加齢に伴って静脈の逆流防止弁も劣化しやすくなるため、一度静脈が広がると弁がうまく閉じられなくなり、血液が逆流し、うっ滞(血液の渋滞)を引き起こす悪循環に陥るリスクが高まります。 つまり、年齢が上がるにつれて、立ちっぱなしや座りっぱなしといった静脈に負担をかける姿勢を続けることが、静脈瘤の発症や進行に直結する要因となるのです。 特に中高年以降で、足の血管の浮きやだるさ・むくみといった症状を感じている方は、「年のせい」では済まさず、一度専門医による静脈エコー検査を受けてみることをおすすめします。早期に診断と対策を行うことで、日常生活への影響を最小限に抑えることが可能です。 5.肥満 肥満は下肢静脈瘤の発症に影響を与える一因とされていますが、遺伝や妊娠・出産、長時間の立ち仕事などに比べると、それほど強い単独のリスク因子ではないと考えられています。ただし、高度の肥満(BMI30以上)に該当する方、とくに女性の場合は、静脈瘤のリスクが明らかに高まるという報告があります。 その理由としては、以下のような複数の要素が挙げられます。 下肢にかかる圧力が増えることで、静脈壁や弁にかかる負担が大きくなり、逆流が起こりやすくなる。 腹部の内臓脂肪が増えると、下半身から心臓に戻る血液の通り道(腸骨静脈や下大静脈)が圧迫され、血液の「渋滞」が起きやすくなる。 肥満の方は運動量が少ない傾向があり、ふくらはぎの筋肉が衰えやすく、筋ポンプ作用が弱くなる。 また、女性の場合は加えてホルモンバランスの影響や妊娠・出産の既往が重なることも多く、複合的に静脈瘤の発症リスクが高まる傾向にあります。 肥満そのものが直接の原因になるというよりは、肥満によって静脈の機能が弱りやすい環境が整ってしまうことが問題です。そのため、体重のコントロールは静脈瘤の予防や再発防止にも一定の効果があると考えられます。 6.便秘 排便の際に強くいきむと、お腹に強い腹圧(ふくあつ)がかかります。これは「腹筋に力を入れてお腹の中の圧力を高める動作」であり、一時的に腸の動きを助けて排便を促します。 しかし、この腹圧が過剰になると、腸だけでなくお腹の中にある大きな静脈(とくに下大静脈や腸骨静脈)にも圧力がかかり、足から心臓へ戻る血液の流れが妨げられるようになります。まるでホースを途中でギュッとつぶしたような状態です。 このように血液の流れがスムーズにいかなくなると、下肢の静脈には一時的な“渋滞”が発生します。そしてその負担が繰り返されることで、逆流を防ぐ静脈弁に強いストレスがかかり、劣化や機能低下を招いてしまうのです。 特に慢性的な便秘を抱えている方は、毎日のように腹圧をかけ続けることになり、下肢静脈瘤の発症や悪化を引き起こすリスクが高くなります。 便秘がちな方は、排便時に無理にいきまないように心がけること、水分・食物繊維をしっかりと摂取すること、必要に応じて医師に相談して適切な便秘治療を行うことが、静脈瘤の予防にもつながります。 7.性別 女性は月経周期にともない、女性ホルモンの一種であるプロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌量が周期的に変動します。特に排卵後から月経前にかけて分泌が増えるプロゲステロンには、血管の平滑筋を緩め、静脈の壁や逆流防止弁を柔らかくしてしまう作用があります。 このホルモンの働きにより、女性は静脈の構造が伸びやすくなり、弁がしっかり閉じられずに血液が逆流しやすくなるため、男性に比べて静脈瘤を発症しやすい傾向があるのです。妊娠中に静脈瘤が悪化しやすいのも、このプロゲステロンの影響によるものです。 さらに、女性は男性に比べて足の筋肉量や筋力が少ないことも静脈瘤リスクに関係しています。ふくらはぎの筋肉は、心臓に血液を押し戻す「筋ポンプ」の役割を果たしていますが、このポンプの力が弱いと、血液が足の静脈内にとどまりやすくなります。 その結果、静脈の内圧が高まり、弁に負担がかかって機能が低下し、静脈が徐々に拡張して瘤状に膨らむという悪循環に陥りやすくなります。 このように、ホルモンの作用と筋肉量の違いという2つの性差が重なることによって、女性は男性よりも静脈瘤になりやすい体質的背景を持っているといえるのです。 特に女性の場合は、月経周期の不調や妊娠・出産の既往、さらには加齢による筋力低下も加わり、リスクが徐々に高まっていくため、早めの予防意識とセルフケアが重要です。 静脈弁が閉じなくなると何が起こるか 静脈には、血液が心臓に向かって一方向に流れるようにするための逆流防止弁(静脈弁)が数センチおきに設けられています。これらの弁は、いったん上に押し上げられた血液が重力に引かれて再び下へ戻ってしまうのを防ぐ重要な働きを担っています。 しかし、この静脈弁がきちんと閉じなくなると、血液は地球の重力に従って下方向へ逆流してしまい、足の静脈内に滞留しやすくなります。とくに立っている時間が長い人ほど、この逆流の影響を受けやすくなります。 通常、血液は下から上へ、段階的に静脈弁を通って心臓へ送られていきますが、弁が壊れていたり、緩んでいたりすると、その仕組みがうまく働かず、「渋滞」や「逆走」のような現象が起こります。 これにより静脈内の圧力が上がり、血管が膨張しやすくなり、最終的に下肢静脈瘤へとつながってしまうのです。 静脈弁が壊れて血液が逆流するようになると、本来ならスムーズに心臓へ戻るはずの血液が下半身の静脈内にとどまり、うっ滞(血液の渋滞)が生じるようになります。このような状態では、血液が十分に心臓へ戻れなくなり、循環全体の効率が落ちてしまうのです。 しかし、体はそのままでは済ませません。血液は「どうにかしてでも心臓へ戻ろう」とします。そこで起こるのが、正常に働いている静脈(深部静脈など)へと血液を迂回させるための“代償機構”です。つまり、迂回ルート(バイパス)となる新しい血管路をつくり出そうとするのです。 この代償的な血管こそが、私たちが目にする「静脈瘤」です。静脈瘤は、単に血管がボコボコと浮き出てきた「異常な血管」ではなく、逆流した血液を逃がすために体がつくり出した“抜け道”のような存在とも言えます。 ただし、この新たにできた静脈は、元々血液を多く流す構造になっていないため、過度な血流によってさらに拡張しやすく、蛇行して表面に浮き出てくるようになります。また、血液が長時間とどまることで、だるさ・むくみ・皮膚の炎症や潰瘍などの症状も引き起こすようになります。 つまり、静脈瘤は「原因」ではなく「結果」であり、背後には必ず静脈弁の故障による血液の逆流=本当の問題(黒幕)が存在するということです。見た目だけを気にしても、本質的な治療にはつながりません。血液の流れ全体を評価し、適切な治療を行うことが重要です。 ①一方通行の道路を反対側から車が逆走してきて、車同士はお互いにどちらにも動けなくなり渋滞します。 ②隣を走る道路が車がスイスイ走っています。 ③渋滞中の道路から空いている道路に向かって迂回路が作られて渋滞が解消されました。 この迂回路に相当するのが静脈瘤なのです。 下肢静脈瘤の症状 静脈には、血液が心臓へ一方向に流れるようにする逆流防止弁(静脈弁)が備わっています。これらの弁が正常に機能している限り、足から上へ向かって血液はスムーズに送られます。 しかし、何らかの原因でこの静脈弁が壊れたり、閉じが甘くなったりすると、血液が重力に引かれて逆流し、再び足の方へ戻ってきてしまうようになります。この逆流が慢性的に続くと、足の静脈の中に血液がたまり、うっ滞(うったい:血液の渋滞状態)を引き起こします。 血液には、酸素や栄養を届ける役割のほかに、老廃物や二酸化炭素を回収して心臓・肺に送り返す役割もあります。逆流によって血液が足にとどまると、こうした老廃物がその場に停滞してしまい、組織にとっては“不要なゴミ”が回収されないまま蓄積されていく状態になります。 この状態は、あえてたとえるなら「下水道が逆流してゴミが溜まり始める」のとよく似ています。流れるはずのものが滞れば、周囲の環境にさまざまな影響を及ぼします。 静脈の血流が滞ると、血液そのものだけでなく、血液中に含まれる水分(血漿成分)も足の静脈内にとどまりやすくなります。本来、これらの水分は血管の中を流れて心臓に戻っていくはずですが、逆流やうっ滞が続くと血管内の圧力が上昇し、余分な水分が血管の外(組織)にしみ出してしまうのです。 こうしてしみ出した水分は、皮下組織にたまっていき、皮膚の表面がふくらむように見える状態――これが「むくみ(浮腫)」です。特にふくらはぎや足首は重力の影響を強く受けるため、夕方になると靴下の跡がくっきり残る、足が重くて靴がきつく感じるといった症状としてあらわれやすくなります。 静脈瘤によるむくみは、朝よりも夕方や夜間に強く出るのが特徴です。これは、日中ずっと足を下げて過ごすことで、重力によって水分が下半身にたまりやすくなるためです。 また、長くむくみが続くと、皮膚のバリア機能が弱くなり、かゆみや湿疹、色素沈着などの皮膚トラブルにつながることもあります。むくみは「見た目」だけの問題ではなく、血流の異常を知らせる大切なサインです。 下肢静脈瘤では、血液が足の静脈内に滞ってうっ滞が起こり、老廃物や二酸化炭素などの不要物が足にとどまったままになるため、さまざまな不快な症状があらわれます。代表的なものとして、 足のだるさ 重だるい疲労感 鈍い痛みやつっぱる感じ 皮膚のむずむず感や違和感 などがあり、人によっては「足の中に何かがたまっているような感覚」や「動かしたくて仕方ない」と訴えることもあります。 これらの症状は、長時間立ち続けたあとや、1日の終わりである夕方から夜にかけて悪化しやすいのが特徴です。これは、重力によって血液が足にたまりやすくなり、静脈内圧が上昇するためです。 また、夜間に多くの方が経験する「こむら返り(ふくらはぎの筋肉が急にけいれんして強い痛みを伴う状態)」も、静脈瘤による血行不良が原因のひとつと考えられています。特に寝ているときは筋肉が動かないため、血流がさらに低下し、筋肉内の電解質バランスが崩れてけいれんを起こしやすくなるのです。 静脈内に血液がたまり続けると、血管は内側からの圧力で徐々に膨張し、蛇行(くねくねと曲がる)して皮膚の表面に浮き出てくるようになります。初期には軽度の浮きや網目状の血管だけでも、進行すれば太くボコボコとした血管が目立つようになり、見た目にも変化があらわれます。 このように、下肢静脈瘤は見た目の問題だけでなく、足の深部で起こっている血流障害の結果として多様な症状を引き起こす疾患です。症状が軽いうちに適切な対策を講じることで、進行を防ぎ、日常生活への支障を最小限に抑えることが可能です。 下肢静脈瘤によって静脈の血液がうっ滞すると、足の皮膚表面の血液循環が悪化し、皮膚に必要な酸素や栄養が届きにくくなります。その結果、皮膚の代謝機能が低下し、以下のようなさまざまな皮膚トラブルを引き起こすことがあります。 まず、血液に含まれる老廃物が皮下にたまることで、足のかゆみや乾燥、湿疹といった炎症が起こりやすくなります。この状態はうっ滞性皮膚炎(うったいせいひふえん)と呼ばれ、初期には「かゆいから掻いてしまう」「かさぶたができる」程度にとどまることもありますが、放置すると徐々に悪化していきます。 進行すると、皮膚の弾力や柔軟性が失われ、皮膚が硬く分厚くなる「皮膚脂肪硬化」という状態に至ることもあります。こうなると、皮膚の下で慢性的な炎症が続き、触れるとゴツゴツとした質感になり、皮膚が茶色〜黒褐色に変色(色素沈着)することも少なくありません。 さらに症状が進行すると、皮膚がもろくなり、ちょっとした刺激や掻き壊しで皮膚が破れ、出血したり「下腿潰瘍(皮膚潰瘍)」と呼ばれる傷ができることもあります。潰瘍は一度できると自然には治りにくく、感染を起こしたり、強い痛みを伴うなど生活の質(QOL)に大きな影響を与える重篤な合併症となり得ます。 このように、見た目だけでなく皮膚症状が出てきた場合は、静脈瘤がすでに進行期に差しかかっているサインとも言えます。早期の段階で治療を受けることで、これらの皮膚合併症を未然に防ぐことができますので、足のかゆみや色の変化を感じた時点で、専門医への受診をおすすめします。 弁が故障しやすい静脈がある 静脈の中でも、特に逆流防止弁が故障しやすいのは、体の表面近くを走っている「表在静脈(ひょうざいじょうみゃく)」と呼ばれる静脈です。表在静脈は皮膚のすぐ下を通っており、圧力や外的刺激の影響を受けやすい構造になっています。 代表的な表在静脈には以下の2本があります: 大伏在静脈(だいふくざいじょうみゃく):内くるぶしの前からすね〜太ももの内側を通り、鼠径部で深部静脈に合流します。 小伏在静脈(しょうふくざいじょうみゃく):ふくらはぎの後ろ側を通り、膝裏で深部静脈に合流します。 この2本の表在静脈は、静脈瘤の発症部位として非常に多く、逆流が起こりやすい「静脈瘤の温床」とも言えます。 一方で、足の中心部を走っている「深部静脈(しんぶじょうみゃく)」は、筋肉の奥深くに位置し、四方を筋肉に囲まれています。この筋肉が歩行や運動時にポンプのように収縮することで、血液を効率よく心臓に送り出す仕組みができており、静脈が広がったり、血液が滞ったりすることはほとんどありません。 深部静脈は、例えるなら頑丈な鎧に守られた重要幹線道路のようなもので、静脈の壁も厚く、弁の構造も堅牢です。そのため、血栓症など特殊な病態を除けば、深部静脈の弁が逆流を起こすことは非常に稀です。 これに対して表在静脈は、内側は筋肉に支えられていても、外側は皮下脂肪や皮膚といった柔らかい組織に包まれているため、筋肉のポンプ作用が不十分な状態や、長時間の立ち仕事などによって静脈内圧が上昇すると、弁が壊れやすく、血液の逆流が生じやすくなります。 そして一度逆流が始まると、血液が足にとどまりやすくなり、内圧によって静脈が徐々に拡張して、蛇行したり、ボコボコと浮き出る「静脈瘤」の状態に変化していくのです。 静脈瘤は「原因」ではなく、「結果」としてできたもの 本来、静脈の逆流防止弁が正常に働いていれば、血液は足から心臓へ向かって一方向に流れます。しかし、表在静脈の弁が壊れてしまうと、せっかく上へと押し上げられた血液が、重力に引かれて下へ逆戻りしてしまいます。 このような状態では、血液は何度も同じ場所を行き来して滞り、「うっ滞(血液の渋滞)」が起こります。この渋滞を解消するには、血液が流れやすい“別ルート”を確保するしかありません。 そこで体は、逆流している表在静脈から、逆流のない健康な静脈(他の表在静脈または深部静脈)へと合流させるための「抜け道(バイパス)」をつくり出そうとします。このバイパスは、もともと小さかった側副血管(そくふくけっかん)や交通枝(こうつうし)が拡張して目立つようになったもので、これこそが「静脈瘤」です。 つまり、ボコボコと皮膚の表面に浮き出た静脈瘤は、体が渋滞を回避するために“苦肉の策”として生み出した通り道なのです。しかしこのバイパスは、太く蛇行して血液の流れが乱れやすく、もともと大量の血液を流す設計にはなっていないため、時間が経つにつれてさらに静脈が広がり、逆流も悪化する悪循環に陥っていきます。 また、バイパス先の静脈がすでに容量オーバーであったり、流れにくかったりすると、本来の目的である“血液のスムーズな流れ”さえ達成できなくなることもあります。このように、静脈瘤は一時的な代償機構であると同時に、病的な状態を悪化させる温床にもなるのです。 したがって、見た目の問題にとどまらず、血流の異常という根本原因を解決することが大切です。静脈瘤の治療では、逆流している静脈を閉鎖し、血液を正常な静脈ルートに戻すこと(本来の交通整理)が重要な目的となります。 本当の黒幕は表には出てこない このように、下肢静脈瘤は単なる血管の異常ではなく、体の奥で起こっている「血液の逆流」という深刻な循環障害の“結果”として現れてくるものです。静脈の逆流が起こると血液が足にとどまり、逃げ場を求めて拡張した表在静脈が、まるで渋滞を起こした道路のように、皮膚の表面にボコボコと浮き上がってくるのです。 そのため、私たちが目で見て確認できる「静脈瘤」は、“体からのSOSサイン”にすぎず、本当に問題なのはその上流にある見えない場所──つまり表在静脈の中で、逆流を防ぐはずの静脈弁が壊れてしまっているという事実です。 静脈瘤は見た目が目立つため、「この血管が悪い」「この部分が病気」と誤解されやすいのですが、実際にはもっと深い場所で起こっている血流の異常が原因であり、あくまでも結果として“症状として現れたもの”にすぎません。 さらに厄介なのは、静脈弁の故障や血液の逆流は体の表面からは一切見ることができないという点です。つまり、本当の黒幕は決して姿を現さず、見た目の静脈瘤だけでは病状の全体像を判断することができないのです。 ただし、静脈瘤の出現は、逆流が起きている可能性を示す重要なヒントでもあります。そこで必要となるのが、「超音波検査(静脈エコー)」です。これは非侵襲的で痛みもなく、リアルタイムで血流の動きや逆流の有無を可視化できるため、現在の静脈の状態を正確に把握する唯一の方法といえます。 したがって、足にボコボコとした血管が目立つ方、夕方になると足がだるくなる方、寝ているときに足がつる方などは、自覚症状の有無にかかわらず、一度静脈エコー検査を受けてみることを強くおすすめします。早期に逆流の有無を把握し、適切な治療や予防につなげることで、将来的な皮膚炎や潰瘍などの合併症を防ぐことにもつながります。 下肢静脈瘤の治療方法についてはこちらのページをご覧ください ご予約・お問い合わせcontact / reservation tel:03-5420-8080 診療時間 9:00〜18:00 休診日 水・土・日(隔週)・祝 24時間受付WEB予約はこちら 下肢静脈瘤について、さらに詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。 下肢静脈瘤のすべて 院長が執筆下肢静脈瘤のすべて 悪化を防ぐには?写真で見る治療経過など、健康な足でいるために、下肢静脈瘤の治療について詳しく知ってください。 詳しくはこちら