下肢静脈瘤の種類
下肢静脈瘤には次のような4つの種類があります。
1. 伏在型静脈瘤
2. 側枝型静脈瘤
3. 網目状静脈瘤
4. クモの巣状静脈瘤
1.伏在型静脈瘤
足の静脈には皮膚の真下にある皮下脂肪の層を走る「表在静脈」と、その下にある筋肉の中を走る「深部静脈」があります。
例えるなら、表在静脈が地上を走る電車、深部静脈は地下鉄のようなものです。
下肢静脈瘤が発生するのは、地上を走る電車に相当する「表在静脈」です。
一般的に立った姿勢で3㎜以上の太さのものを「静脈瘤」といいます。
表在静脈には大きく分けて「大伏在静脈」と「小伏在静脈」の2本の静脈があります。
この大(小)伏在静脈の弁がちゃんと閉じなくなったために血液が重力に負けて下に向かって逆流し、血液が静脈内で渋滞(医学用語では「うっ滞」といいます)します。
血液の渋滞が慢性的になると、静脈が少しずつ引き伸ばされて太くなっていきます。
静脈が太くなると、弁も引き伸ばされてさらに閉じなくなるので、血液がさらに逆流して渋滞がもっとひどくなります。
この悪循環を繰り返して静脈は拡張とクネクネとした蛇行をするようになります。
つまり、伏在型静脈瘤は大(小)伏在静脈の弁が逆流しているものをいいます。
静脈瘤のタイプとしては最も多いのが伏在型静脈瘤です。
<症状>
静脈を流れる血液は老廃物を多く含むため、伏在静脈瘤の場合、血液が重力により逆流して血液中の老廃物が膝から下に溜まってしまいます。
すると、足のだるさ・重さ、足の血管が浮き出て目立つ、こむら返り、足のむくみ、湿疹・かゆみ、皮膚の色が悪くなる(色素沈着)などの症状がでるようになり、最終的には皮膚に穴が開いてしまいます(皮膚潰瘍)。
<治療の必要性>
自覚症状もなく、うっ滞性皮膚炎にもなっていない方は、経過観察でも構いません。
自覚症状のある方は手術により症状の改善が見込めます。
湿疹・かゆみ、色素沈着、皮膚潰瘍などの皮膚症状(「うっ滞性皮膚炎」といいます)が見られた場合は特に手術が必要です。
<治療方法>
現在、伏在静脈型の下肢静脈瘤に対する治療方法は、レーザーカテーテルまたは高周波カテーテルによる血管内治療が標準治療です。
従来のスタンダードな手術方法であるストリッピング(静脈抜去術)手術は、ほとんど行われなくなりました。
その理由は、ストリッピング手術はメスで皮膚を切開する必要があるため、体に対するダメージが大きいこと、そして、レーザーまたは高周波で治療できない伏在型静脈瘤はほとんどなくなってしまったからです。
2.側枝型静脈瘤
側枝型静脈瘤は、その名の通り「枝分かれした」静脈瘤です。
つまり、大(小)伏在静脈から枝分かれした静脈に逆流が生じ、年月の経過とともに徐々に静脈が太くなり、クネクネ蛇行したものです。
<症状>
症状は伏在型静脈瘤とほぼ同じです。
<伏在型静脈瘤と側枝型静脈瘤の違い>
伏在静脈は筋膜と筋膜の間に挟まれた“saphenous compartment”というスペースを走るため、静脈の拡張や蛇行はさほどでもないのですが、側枝型静脈瘤は伏在静脈から枝分かれして主に皮下脂肪の層を走るため、静脈の拡張と蛇行が著しくなる傾向にあります。
そのため、治療の際にはカテーテルやストリッピングに用いる特殊なワイヤーが入らないことがしばしばあります。
<治療方法>
伏在型静脈瘤に比べると側枝型静脈瘤は屈曲が著しい事が多く、その場合は皮膚を数か所切開して直接静脈瘤を切除します。
最近はレーザーカテーテルが改良され、クネクネと曲がりくねった静脈瘤を分割して焼くことができるようになりました。
それでも焼ききれない静脈瘤や、細い静脈瘤には硬化剤を注入して閉塞させる硬化療法を行います。
3.クモの巣状静脈瘤
網目状静脈瘤と同様に、太ももやひざ、ふくらはぎに赤や紫色の毛細血管が見られることがあります。
これをクモの巣状静脈瘤といいます。
皮膚の直下、真皮と呼ばれる層を走る直径0.1~1mmの毛細血管です。
英語ではspider veinといい、クモの巣状「静脈瘤」と名前はついていますが、正確には、「毛細血管拡張症」と言います。
太ももの裏側を走る表在静脈「外側静脈系」から派生し、多くの場合、「栄養血管」といわれる網目状静脈瘤を根っことして、樹枝状に生えてきます。
<原因>
足の静脈がボコボコ目立つ「下肢静脈瘤」とは発生の原因が異なります。
下肢静脈瘤は静脈の逆流防止弁がダメになり血液が逆流することで血液の渋滞が起こり、渋滞の抜け道として静脈瘤が発生します。
これに対し、クモの巣状静脈瘤はホルモンの影響、遺伝、皮膚が薄いことなどの要因に加え、静脈の血圧が高くなることにより毛細血管が拡張・蛇行していきます。
思春期や妊娠中に発生することが多く、年をとるにつれ増えてくるというわけではありません。
<症状>
クモの巣状静脈瘤の部分に時おりピリピリとした痛みを訴える方がいらっしゃいますが、基本的には無症状です。ほとんどが見た目の問題です。
<治療の必要性>
見た目は気にしないという方は、放っておいても構いません。
見た目を気にして治療を希望される方への治療法は、保険診療では硬化療法、自由診療では皮膚レーザー照射があります。
<治療方法>
硬化療法
血管内に硬化剤を注射して静脈に炎症をおこさせます。
2日間患部をストッキングや包帯で圧迫すると、静脈瘤がぺったんこに閉塞します。
血が流れなくなった静脈瘤は徐々に退化して目立たなくなっていきます。
硬化療法を行うと、静脈瘤に炎症が起こるので、10~30%くらいの方は静脈瘤に一致して皮膚に色素沈着が起こります。
色素沈着は半年くから1年程度続き、徐々に消えていきます。
皮膚レーザー照射
皮膚に直接レーザー光線を当てて治療します。
レーザー光線は赤い色に吸収されますので、赤い色をしたクモの巣状静脈瘤はレーザー照射の良い適応です。
どちらがきれいに仕上がるかについては、硬化療法よりも皮膚レーザー照射のほうが仕上がりは優れています。
ただし、健康保険が効きませんので自費での治療となります。
4.網目状静脈瘤
網目状静脈瘤は、太ももやひざ、ふくらはぎにみられます。
直径2mmまでの毛細血管で、通常は青色をしています。
クモの巣状静脈瘤と交通していることが多く、クモの巣の「栄養血管」ともいわれます。
<症状>
クモの巣状静脈瘤と同様に、特有の症状はありません。
<治療法>
クモの巣状静脈瘤と同様に、見た目を気にされる方は硬化療法が適しています。
皮膚レーザー照射は、静脈の太さや色を考えると必ずしも効果的とは言えません。