下肢静脈瘤に関する誤解
下肢静脈瘤は多くの方に誤解されている
下肢静脈瘤はテレビなどメディアでたくさん取り上げられるようになり、この病気の名前を知っているという方はだいぶ増えたと感じます。しかし、下肢静脈瘤のことを正確に理解しているかというと、必ずしもそうではありません。下肢静脈瘤は多くの方に誤解されていると感じることがいくつかあります。それは患者さんだけではなく、医療従事者であっても誤解しています。
今回は下肢静脈瘤に関する誤解を3つ取り上げてみたいと思います。
下肢静脈瘤に関する誤解その1
「足にボコボコ浮き出た血管が悪さをしている」
クリニックをおとずれる患者さんは、ほとんどの方が足に静脈瘤を認めます。
お話をうかがっていると、多くの方はボコボコと浮き出た血管が足のだるさやむくみなどの原因と考えていらっしゃるようです。
そこで、超音波検査を行いながら病気の説明をすると、みなさんびっくりされるのです。
「下肢静脈瘤」=「足の静脈がボコボコした状態」なので、この目立つ血管が病気の主役と考えても仕方がないと思います。
このボコボコ浮き出た静脈瘤はなぜできるのかを説明します。
血液は心臓から送り出され、動脈を通り全身に流れていきます。
全身から心臓へ戻る血液は静脈を通るわけですが、足の静脈は重力に逆らって心臓に戻らなければなりません。そこで、静脈のなかには血液を一方通行に流れるようにする弁とよばれる扉のような構造が数cmごとにあります。
下肢静脈瘤の方は、この弁がきちんと閉じないために血液が下に逆戻りしてしまいます。すると下から上がってきた血液と、上から落ちてきた血液がぶつかり合って渋滞がおこります。
何年もこのような状態が続くと、体に変化が現れます。血液が渋滞を回避しようとして、バイパス道路を作り始めるのです。これが静脈瘤です。
静脈瘤は静脈の弁がダメになり、血液の逆流が起きるようになった結果できてしまったのです。ですから原因は静脈の逆流で、結果が静脈瘤です。
つまり、ボコボコ目立った静脈瘤は、足のだるさやむくみ、こむら返りなどと同様に、静脈の逆流が原因で出てきた症状の一つに過ぎないのです。
したがって、ボコボコ目立った静脈瘤を手術できれいにしても、足の症状は改善しませんし、原因である静脈の逆流に対する治療を行わなければ、また再発してしまいます。ですから、見た目の派手さに惑わされずに、隠れた病気の原因を確認して対処することが大切です。
静脈の逆流は外からは見ることはできませんが、超音波検査を行えば確認することができます。
下肢静脈瘤に関する誤解その2
足が腐って切断!?
「テレビで『下肢静脈瘤で足を切断』と言っていたので、怖くなって来た」とおっしゃる患者さんにしばしばお目にかかります。
結論から申し上げますと、下肢静脈瘤で足が腐って切断することはありません!
足の動脈が血行障害を起こした場合は足の指先から壊死が生じ、最悪の場合切断となることがあります。
しかし、下肢静脈瘤で足が腐ることはありませんし、ましてや切断に至ることなど決してありません!
おそらくテレビでご覧になったのは、静脈瘤が進行した場合にみられる「うっ滞性皮膚炎」についての話だと思われます。
下肢静脈瘤のある患者さんで、湿疹・かゆみ・色素沈着など、静脈うっ滞による皮膚症状があると、ケガや皮膚のかきこわし等をきっかけに、皮膚潰瘍が生じることがあります。
圧迫療法やレーザー焼灼術などにより静脈のうっ滞を改善することで皮膚潰瘍は治すことができます。
下肢静脈瘤に関する誤解その3
下肢静脈瘤があると、血栓ができて肺に飛ぶ
これも患者さんからよくうかがうお話です。
肺に飛ぶ血栓とは「肺塞栓症」といいます。原因となる血栓は「深部静脈血栓症」と呼ばれます。「エコノミークラス(ロングフライト)症候群」という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。
足の筋肉の間を走る「深部静脈」という血管に血栓ができる病気で、血栓が小さい場合は無症状のこともありますが、大きな血栓が血液の流れに乗って肺に流れ込むと、突然の胸の痛み、呼吸困難、時に死に至ることもあります。
血栓ができるためには3つの要因があります
1. 血液組成:脱水状態やがんなどの病気
2. 血管壁の状態:外傷などで血管が傷つく
3. 血流の状態:寝たきりや長時間の同じ姿勢など
これらの要因のうち1個だけでは血栓は発生しにくく、これら3つの要因のうち2個以上の要因が重なった場合に血栓が生じることがあります(絶対になるわけではありませんよ!)。
下肢静脈瘤があるからといって必ずしも深部静脈血栓症のリスクになるわけではありません。ご安心ください。